杵築市立山香病院 病院事業管理者・院長 小野 隆司
Q.就任して一年ですが、病院のことを教えてください。
昨年の9月に私はここに呼んでいただきました。山香病院は長らく院長不在で運営され、事実上医療崩壊の厳しい状況でした。
経営立て直しのために事業管理者兼任で院長に就任しました。
県や大分大学の理解と支援を受けて、今の職場にいます。
ここで私は現場監督。当直もします。既存の医師の概念にとどまらないメディカルエキスパートを目指しています。
もし私が現役でなくなれば病院のことがわからなくなる。
地域に対して責任ある者として、地域全体のことまで実際にわかっていなければならないと考えています。
とにかく今はまず市からの補助金に頼らない自立経営にまでもっていく強い決意でやっています。診療における一つの目標は、日本ではまだ馴染みがうすい総合医を育てるという考え方です。特にへき地、過疎地において少ない人数で診療レベルを上げるには、常に現場優先で対応し、現場ではどうかを踏まえたうえで、自分の専門科以外にも広く知識、経験を持って、患者さんを診なくてはやっていけませんから。
患者さんが病院に来ているのに「専門外なので診れません」とは言わせません。
Q.院長ご自身も離島医療の経験が深いそうですが。
誰しもが思い描くお医者さんの原点は赤ひげ先生ですよね。
何でも診ることができるいわゆる総合医です。
私は外科が専門ですが、離島にいたときは極端な医師不足の中で、内科全般、小児科も診ていました。
脳外科、整形外科、そして帝王切開があれば手術に参加しなければならない状況でした。
すべて一人でやる必要に迫られました。そういう意味では離島医療は医師としての私の基盤であり、スーパー総合医を育てる「道場」でもありました。
患者が自分で診察科を決めて、歩いていきなり大学病院に診てもらいに行く国なんてほかにないですよ。
最初に病院側が病気の見極めをしないと。これからは日本でも総合医と呼ばれる医師が求められる時代。入り口は患者ではなく我々医師が考えるべきです。
Q.一階の総合案内にも総合診療科という名前を掲げてあります。
米国や英国では総合診療医と呼ばれる医師が初診の段階で、初期診療を行う総合診療科という分野が広く認識、確立されて登録されています。
イギリスに留学していたとき、娘の具合が悪くなり、総合医(GP)を受診しましたが、私は何の病気かわかりませんでした。結局、娘はりんご病だったのですが「君は外科医だから仕方ないよ」と言われて恥ずかしい思いをしました。
英国のGPには地域に対する責任、医師の誇りを感じました。
彼らは実際、社会的地位も高く、尊敬されています。
総合医の価値を当院から日本全体にひろく根付かせるような働きができないかと考えています。
そのためには医師の訓練はもちろん、患者の意識の啓蒙も必要です。
社会保障制度の行き届いた英国では、診療費はすべて無料なため、GPに診てもらうことによる医療費抑制の意味合いも強いと考えます。
彼らの診断を経て、はじめて次の段階にすすみ、処方箋や紹介状を持って薬局や各専門科へ行く手順となっています。
Q.実際にどのようなチャレンジをされていますか。
毎朝開かれる入院症例カンファレンスで、入院患者を医師全員で共有しています。職員の意識も変わり、現在ではたいへん有機的に機能しています。
また、医師の勉強会も各科の専門を越えて行っています。勉強会は、「専門ではないから自分は診れない」と言わせないため、各科の既存の壁をこえる意識に期待しています。
総合医を育てることのできる病院を目標に、総力で励んでいます。この9月から同じ敷地内で病児保育のチャレンジもはじめました。
とくに出産、子育てを経た女性看護師に安心して働いてもらえる環境づくり、雇用創出にも意欲的に取り組むつもりです。病院では現在特に整形外科医、脳外科医も募集していますから、ヤル気のある方はどうぞご連絡ください。
Q.大分大学医学部では地域医療学の講義をしていますね。
地域医療の現場からの立場で講義し、総合医の必要性を学生に伝えています。
講義の中ではこれからの地域の医療を担う、使命感、責任感について熱く話をしています。