多領域の癌治療へ応用可能な技術革新を目指す=難しい術前リンパ節転移診断=

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徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・生体防御腫瘍医学講座 胸部・内分泌・腫瘍外科学分野
教授 丹黒 章

丹黒 章 (たんごくあきら) 1981 徳島大学医学部医学科卒業 山口大学医学部医員(研修医) 1986 山口大学医学部助手 1989 米国アーカンソー州立大学研究員 1991 山口大学医学部助手 1996 同講師 1998 同助教授 2004 徳島大学大学院教授 2012 徳島大学病院副病院長

がんリンパ節転移の検査が特長的だと聞きます。

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取材は教授室で行なった。特別の意識なく連携に話がおよんだのは、それが日常だからだろう。

 センチネルリンパ節とは癌が最初に転移するリンパ節で、乳癌ではこれを調べて転移がなければリンパ節郭清を省略することができます。乳癌では予防のために乳癌腋窩リンパ節郭清を、十分な検査なくやっていた時代もありますが、上肢リンパ浮腫は難治ですから、今は必要のない人まで切るようなことはしません。

 山口大学にいた時、学内の放射線科と協力して、CTによる画像診断でセンチネルリンパ節をみつける方法を開発しました。術中ではなく、術前にCTで診断できるのは便利なことです。この方法を用いるとリンパ節転移診断が手術前に判定できます。私の赴任前から徳島大学では、我われが開発したこの方法をすでに採用してくれており、今では全国で徐々に普及し始めています。

 従来の転移診断はリンパ節が腫れているとか、大きさでしか判断していませんでしたが、リンパ管の造影で、管がつまっている・滞っている・リンパがよく染まらないということで、判断が可能です。

 この技術は本来、リンパ節転移診断がむつかしい食道癌のリンパ節への転移をみつけるために考案しました。しかしセンチネルリンパ節生検が普及しているのは乳癌ですから、乳癌の検査からスタートし、現在は肺癌と甲状腺癌でも同様の検査をしており、将来的には私が当初予定していた食道癌の治療に応用できるよう、研究中です。

手術では食道癌治療の技術を応用したと聞いています。

 私の教室は胸部外科を主としており、初代の教授は結核を専門とされていました。二代目と三代目が肺癌の専門家で、四代目の私は本来、食道癌の治療と研究を専門としています。

 食道癌は乳癌同様、リンパ節への転移が多く、これを切り取ることで合併症が発生します。合併症を極力少なくするために食道癌の治療では、上手にリンパ節を取ることが重要です。私は独自に器具を作製し、「縦隔鏡下の食道切除術」を開発しました。この技術を乳癌手術にも応用しています。

 腹腔鏡の手術では二酸化炭素を充満させ大きな空間を作りますし、肺は片肺を潰してスペースを作ります。しかし食道の周りにはスペースがありません。食道の内視鏡治療では、通常胸からカメラを入れますが、私の縦隔鏡は頸から入れて治療します。この技術は、甲状腺や乳腺でも同じ事ができるわけです。この技術はもうかなり広まっているなと、感じています。本当に良い手術なので、もっと広めたいと考えています。

 西洋から来たものはすぐに受け入れるのですが、日本発のものは優れたものでもなかなか受け入れられない現状があります。しかし海外から来た技術は、日本人にそのまま使えるものばかりではありません。乳腺や乳房は、そもそもサイズが大きく違います。国内ではエビデンスをつくるための大規模な試験が難しいなどの問題もありますが、もっと日本発の技術やエビデンスを、我々医療人は開発するべきだと思います。

そのほか、手術について特長的なことは。

 乳癌手術の麻酔は全身麻酔を用いることがほとんどですが、徳島大学では私の赴任した時から、すべて局部麻酔を行なうことにしました。局所麻酔で乳癌が根治すると大変驚かれました。

 また、徳島大学形成外科は、日本の形成外科の草分けのような存在です。乳房の再建などで協力をいただいていますが、非常に信頼のおける仲間で、助かっています。現在の医療は連携が重要ですから、協力関係にある他科が優れているのはありがたいことです。耳鼻科の先生が咽頭癌の手術をした時、我々が腸の一部を移植することもありますが、その時に血管を縫ってもらうこともあり、形成外科には大変お世話になっています。

徳島大学病院は医歯連携が知られています。

 乳癌に限らず、手術の前には歯学部が運営する口腔管理センターで口腔内をチェックしてもらいます。歯周病の菌は肺炎の原因になりますし、抗がん剤治療では歯垢が感染症の原因になりますから、虫歯の治療と口腔内を綺麗にしておくことが必要です。今は医科と歯科は別棟にありますが、手術室は同じところにあるので、以前から顔はよく合わせていました。来年の9月に竣工する新外来棟では同じ建物の中で診療しますから、今後歯科との連携はますます進むと思います。歯学部だけでなく、徳島大学病院は県の歯科医師会とも協定を結んでおり、開業の歯医者さんに通っている人は、そちらで口腔ケアをしてもらうようにお願いしています。

 乳癌は、抗がん剤を用いることが多く、口内炎ができやすくなります。口内炎になると食欲がなくなり、治療の意欲を削ぎます。それで今、口腔内科と協力して、口内炎の予防も研究しています。漢方薬の半夏瀉心湯という製剤が口内炎の治療に凄く良く効き、これを予防に使えないかと考えています。抗がん剤の治療をしている間、この製剤でシャーベットを作り、食べてもらっています。口腔内が冷えると血管が細くなるので、口の中に抗がん剤が届きにくくなり、それだけでも副作用が緩和できます。

 また、乳癌は骨への転移が多いがんでもあります。その予防に骨粗鬆症の治療にも用いる、破骨細胞の働きを抑える薬を使いますが、これの服用中に歯を抜くと顎骨壊死しやすいので、虫歯があると使いづらいわけです。安易に歯を抜かないためにも、事前に治療しておかなければなりません。

 副作用や合併症が起こってから対処するよりも、そうならないようによう、研究中です。することが大切です。口腔内のケアに限らず、予防は重要だと考えています。しかし、乳癌は初潮から閉経までの期間が長いとなりやすい、ホルモンが関係する病気で、一次予防はできません。ですから、二次予防であるがん検診による早期発見が重要です。

検診率向上の活動も熱心ですね。

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徳島大学病院医科外来診療棟。病院の中央診療棟3階には連絡橋があり、隣接する徳島県立中央病院と接続しており、蔵本メディカルゾーンとして機能している。

 私は山口県宇部市の出身で、徳島大学を卒業しています。24年間は徳島を離れ、故郷の山口県にいましたが、10年前に帰ってきました。当然阿波踊りは大好きで、名人を目指そうと考えています。

 乳癌検診の啓発活動に阿波踊りを利用しようと考えました。毎年阿波踊り期間中に「徳島ピンクリボン集会」を開催し、全国から招いた癌の専門医や患者さん達と癌について勉強します。また一緒に桟敷に踊り込み、検診の大切さをアピールしています。私も連長として、毎年阿波踊りを特訓して、この催しに臨んでいます。(注:連は阿波踊りの一団の単位)


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