放射線医学は画像の背後に隠れたものを想像すること

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長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 放射線診断治療学 教授 上谷 雅孝

1981 長崎大学医学部卒業 長崎大学医学部放射線科入局 1987 米国オハイオ州クリーブランドクリニック留学(Special Clinical Fellow,Musculoskeletal Radiology) 1989 長崎市立成人病センター放射線科部長 2004 長崎大学医学部(大学院)教授 著書:単純X 線写真のためのキーワード201(メジカルビュー社) 骨軟部疾患の画像診断(秀潤社) MRI のABC(日本医師会編、医学書院)など

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放射線診断に興味を持ったきっかけは胸部単純写真の読影からです。1 枚のX 線写真から診断を導くには、そこにみえるものだけでなく、背後に隠れたものを想像することが必要です。最近の画像診断技術の進歩は我々の目にみえる範囲を大幅に広げてきましたが、その反面、想像することの楽しみが相対的に減ってきたようです。新たな技術開発は放射線医学の発展にとって不可欠ですが、それを生かすのは我々の想像力であることを忘れないようにしたいと思っています。

 1895 年、Wilhelm Conrad Roentgen がX 線を発見以来、放射線医学はめざましい進歩をとげてきました。画像診断の件数はますます増加し、要求される診断のレベルも高まっています。私が長崎大学医学部放射線科に入門したのは1981 年で、ようやくCT が普及しつつある時代でしたが、仕事の主体は単純写真、X 線透視、血管造影、放射線治療でした。今から考えると、古き良き時代だったと思います。

■画像のデジタル化とコンピュータ・ネットワークの応用

 多くの病院で、単純X 線写真を含むほとんどの放射線画像はデジタルデータとして扱われ、画像サーバに蓄積された画像は、院内のネットワーク上の端末であれば、どこでも閲覧可能になりました。フィルムをシャーカステンで見るという時代が過ぎさりつつあります。驚いたことに、最近の学生の多くはシャーカステンという言葉を知りません。

 インターネットを使った遠隔画像診断も広く行われるようになっています。我々もNPO 法人長崎画像診断センターを設立し、昨年4 月から運用を開始しました。大学病院地下1 階のMR 検査棟の一室に専用の画像サーバと読影端末があり、あじさいネットのインフラを利用しています。現在、離島、島原を中心に10施設と契約を結び、月に約1000 件のCT・MRI 読影を行っています。遠隔画像診断の利点は、遠隔地で常勤の放射線科医がいない施設でも緊急検査に対応できること、読影場所の制限が少なく、緊急読影、自宅や留学先などでの読影環境を提供できること、常勤放射線科医がいる病院でも専門領域のコンサルトを受けることができること、などが挙げられます。その反面、読影結果に対するフィードバックが得られにくいこと、電子カルテとのデータのやりとりに余分な費用が発生すること、などの欠点もあります。最近はいくつかの企業が遠隔読影ビジネスに参入し、読影の質も問題となっています。

 コンピュータ応用のひとつとしてコンピュータ支援診断(computer-aided diagnosis)があります。病変の見落としや診断のばらつきを減らし、読影時間を短縮させる目的で実用化がはかられていて、現在もっとも普及しているのは乳房撮影における腫瘤や石灰化の検出です。

 データベースを蓄積し、しらみつぶしに検索するコンピュータの能力は人をはるかに超えています。画像診断がパターン認識だけで完結するのであれば、膨大なデータを蓄えたコンピュータで診断ができるようになるでしょう。しかし、画像診断がパターン認識だけでは終わるはずがありません。画像はあいまいな情報を多く含んでおり、そこから幅を持たせた判断を行うことが必要です。臨床所見や臨床医の要求を十分把握しておく必要もあります。コンピュータの発達は放射線科医でなければできないこと、放射線科医のあるべき姿を見直すきっかけになるかもしれません。

■CT の進歩:検出器多列化による撮像時間の短縮、広範囲・高解像度画像、二重エネルギーCT

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図1:胸部大動脈ステントグラフト挿入前後のCT 血管造影

 ヘリカルCT の開発と検出器多列化で、数秒で胸腹部のCT が撮影できるようになりました。ほんの数秒の撮影で、1㎜以下の薄いスライスデータが1000 枚以上得られます。このデータを使用して、横断像だけでなく、冠状断像や矢状断像、血管や脊椎などの走行に合わせた曲面像、3D 画像などを再構成できます(図1)。さまざま部位の血管のCT 画像(CT 血管造影)も高解像度の画像が得られ、診断目的の血管造影のほとんどはCT 血管造影で置き換えられつつあります。また、経時的撮像により3D 画像の動態を観察する、いわゆる4D 画像を得ることも可能で、心臓の動態や血流動態の評価に用いられています。

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図2:二重エネルギーCT による肺血流評価(lung PBV)

東芝で開発された320 列CT は面検出器CT とも呼ばれ、1 回のスキャン(最速0.275 秒)で16 ㎝の範囲の撮影を行うことができます。このため、心臓のCTを1 心拍で撮像することが可能で、不整脈の影響のない画像が得られるようになりました。
二重エネルギーCT(dual energy CT)は異なるX 線のエネルギー(管電圧)の違いによる物質のX 線吸収の差を利用して、特定の物質の抽出または除去を行う方法で、造影CT におけるヨード分布(肺血流、心血流、肝血流、腫瘍血流などの定量評価)、尿酸結石の鑑別、骨やカルシウムの除去などへの応用が試みられています。いくつかの方法がありますが、我々の施設にあるCT(シーメンス社製)はひとつのガントリーにX 線管球と検出器が2組備えた2 管球型のため、1 回のスキャンで二重エネルギーCT を得ることができます。我々はこれによって造影CT における肺内のヨード分布を測定し、肺血流の評価に応用しています(図2)

■MRI の進歩:高速化、高解像度、超高磁場、静音化、四肢専用MRI

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図3:3TMRI による膝関節の高分解能CT→の部位に関節軟骨の小欠損を認める。

 MRI はハードウェアの進歩とともに種々の撮像法が開発され、より高速で高解像度の画像が得られるようになりました。磁場強度も1.5T から3T、さらには7Tの装置が実用化され、高解像度画像や機能画像が得られます(図3)。多くの撮像法が提唱されているものの、撮像装置の違いによるバリエーションが多く、撮像法や評価の方法が標準化されていないことが多く、異なる機種で撮像した場合の比較、特に定量化の点で問題を生じることがあります。

 撮像時における大きな騒音はMRI 検査の不快の原因のひとつであり、耳栓を装着しない場合は聴力障害をきたすこともあり、小児などの鎮静の妨げになります。GE 社で開発されたSilent Scan はこの騒音をほとんど無くすことができる技術です。まだ、使用できる撮像法に制限があるが、今後広く臨床応用されることが期待されています。

 四肢のMRI は整形外科領域あるいはリウマチ疾患領域において、欠くことのできないものになっています。特に関節リウマチの診断では手関節MRI を行なうことが多く、欧米では四肢専用MRI の臨床応用が広がっています。四肢専用装置は汎用機と比較して安価で場所をとらないこと、楽な体位で検査を行うことができることからなどが利点です。当初は低磁場装置で画質も十分でなかったが、最近は1.5T の四肢専用装置が開発され、汎用機とほとんど互角の画像が得られるようになりました。

■画像診断技術の進歩に伴う問題点:放射線科医の不足、放射線被ばく

 画像診断装置の普及と検査時間短縮により、検査数が増え、画像診断専門医の数はますます不足しています。画像診断専門医がいない状況でCT・MRI などの画像検査のみが行われ、その診断が主治医のみに任せられている施設も多く、画像診断の進歩を生かすためにも、画像診断専門医としての放射線科医のさらなる育成が我々の急務です。

 日本はCT などのX 線検査による医療被ばくが他の先進国と比較してもきわめて突出していることが知られています。2004 年にLancet に報告された論文によると、日本では医療被ばくによるがん患者の推定数が年間7587 人で、癌患者全体の3.2% に及ぶことが推計されるとしています。これに対して、英国では医療被ばくによるがん患者の増加は年間700 人、0.6% です。これは広島・長崎におけるヒバクシャのがん発症リスクのデータに基づき、100mSv 以上の被ばくで証明されている被ばく量とがん発症リスクの直線的な相関関係を100mSv 未満の低線量被ばくに当てはめた仮説(しきい値なし直線仮説)に基づく推計です。この推計に対する異論もあるが、日本におけるX 線検査の数がきわめて多いことは議論の余地がありません。

 このようなデータから、人々が発がんをおそれてX線検査を受けなくなることは避けなければなりません。検査の適応を考えるには、検査によって受ける利益とX 線検査によるリスクとのバランスが判断基準となります。適切なデータに基づいたガイドラインの適用も必要です。最近は低線量CT でも画像ノイズの低減が可能となっており、CT におけるX 線被ばく低減への効果が期待されています。


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