命の一番近くにあるのが「心」

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香川大学医学部 精神神経医学講座 教授 中村 祐

1986 大阪大学医学部卒業 1996 大阪大学医学( 系) 研究科( 研究院) 助手 2002 奈良県立医科大学講師 2003 奈良県立医科大学助教授 2005 香川大学医学部主任教授2014 香川大学医学部附属病院こどもと家族・こころの診療部部長 ■所属学会・認定・資格 医学博士、精神保健指定医、臨床心理士、日本老年精神医学会理事・治験関連委員会委員長・専門医・指導医、日本認知症学会評議員、日本認知症ケア学会理事・広報委員会委員長、香川県精神保健福祉協会会長、香川県認知症疾患医療センター( 大川保健医療圏域) センター長 他。

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よく読む本のジャンルは金融関係の本。株価や景気には群衆心理が反映される点に興味があるそうだ。

―精神医学講座の概要と今後の取り組み。

 今年から子供の患者さんの診療も行なうようになって、子供からお年寄りまで、精神科に関連する全ての領域を診ています。たとえば認知症の場合、神経内科で対応している病院が多いですが、当院は精神科で診ています。

 これまで認知症に力を入れていましたが、今後は発達障害、摂食障害、精神的な問題で不登校になっている子供たちの医療にも力を入れていきたいと考えています。

―香川県は精神科医が不足しているそうですね。

 ですから当大学の講座を魅力あるものにしなければいけません。興味がある分野は人それぞれなので、間口を広げる必要があります。こちらから研究分野を押し付けるのではなく、多くの選択肢の中から自分がやりたい分野を見つけてもらうことで、大学に残ってくれる人が増えるのではないかと期待しています。

 ものごとの魅力は横に広くか、縦に深くかのどちらかなので、当講座では横に広くすることで多くの人材を確保したいと思っています。

 将来、開業するにしてもすべての領域を幅広く診ることのできる医師が求められていて、その上で何か一つ得意な領域があるのが精神科医の理想像です。

―精神科医に求められる資質とは

 最も求められる条件はたった一つ「常識があること」です。大勢の人が考えていることを推測できることが精神科医には求められます。常識が分かっているからこそ患者さんの抱える問題を探り当てることができます。

―認知症が原因の行方不明者増加が社会問題化しています。

 認知症の人から一日中目を離さないようにするのは現実的には不可能ですし、ずっと家に閉じ込めておくこともできません。

 認知症の人は歩いて行動するのがほとんどで、公共交通機関や自動車などを使って移動する人はあまりいません。もし姿が見えなくなっても、早く気付けばそれほど遠くには行っていません。その人の行動パターンを把握しておき、いなくなったら迅速に警察などに相談することが重要です。また持ち物には名前と連絡先を書いておくことも必要になります。

―認知症患者の受け入れ態勢について。

 精神科だけで診るのではなく、内科など他の科で診療している病院が数多くあります。これからの病院は機能、医療従事者のスキルを高め、病院全体で患者さんを受け入れていくことが必要です。

―精神科の魅力を教えてください。

 学生時代は「機械やロボットに人間の代わりができるかどうか」に興味がありました。人間の体の一部分ではそれも可能ですが、人間の心を持つことは機械にはできません。たとえば私と同じような反応をする機械を作ったところで、それは私ではありません。桜を見て「きれいですね」と同じ言葉が出たとしてもそれは私とイコールの存在にはなり得ません。人間の心はとても複雑で、機械で似た反応をすることが出来ても、取って代わることは不可能だということです。

―食生活改善と認知症予防の関連性について。

 南ヨーロッパに地中海式食事法というものがあります。野菜や果物など植物性食品を多くとり、同じく植物性のオリーブオイルを主な脂肪源とします。動物性食品は、ヨーグルトなど低脂肪の乳製品や魚介類、脂の少ない鶏肉を週に数回とり、脂肪分が多い肉は少量にとどめるのが基本です。

 九州大学の精神科の小原知之先生が久山町研究(福岡県糟屋郡久山町の地域住民を対象とした疫学調査)での論文で、認知症の発症リスクの主たる原因に糖尿病が関係していると発表しました。認知症予防のためにはまず糖尿病にならない、もしなったとしてもコントロールするのが重要だと述べています。

 現在、末梢神経の障害を診る機械を工学部と共同開発し、そのデータを集積しています。糖尿病になると末梢神経に障害が出ますが、早めに発見することで、糖尿病をコントロールし、認知症を予防できるのではないかと考え、力を入れて研究に取り組んでいます。

―趣味は何ですか。

 写真撮影です。私のこだわりは一眼レフなどは持ち歩かず、コンパクトデジカメで撮影することです。一眼レフは三脚を使わないと手ブレを起こしますが、コンパクトデジカメは手ブレもなくきれいな撮影が可能です。特に暗い場所、動く被写体などの撮影には重宝していますね。

―精神科医を目指す人にメッセージを。

 人間は衣食住が満たされて生命が保障されている状態になるほど、精神的な問題が発生しやすくなります。日本でも今後もますます増えてくることが予想され、精神科医のニーズはますます高くなり、活躍の場が増えることが予想されます。

 うつ病の患者さんを治療する時には、患者さんそれぞれで治療法が違います。「うつ症状尺度が20点なのでこの薬を使用します」とはなりません。ある人は薬で治るかもしれないし、ある人はカウンセリングが必要かもしれない、個別性がある病気です。認知症も同様で、長谷川式簡易知能評価スケールが15点の高齢者が3人いても治療方法はそれぞれ違います。精神疾患の治療は時間も手間もかかり人手が要ります。

 医療の根源とは命を救うことですが、命に一番近い場所にあるのが心です。命を救えても心を救えなかったら何の意味もありません。精神科は数字で表せないものを扱う科で、個別性があるのが特徴です。血圧が180あるのと、長谷川式簡易知能評価スケールが18点あるのとでは後者の方がより幅広い対応が求められます。

 実際にあった話ですが八百屋をしていた人は長谷川式を受けると点数が高めに出るそうです。なぜかというと商売柄計算が得意だということと、質問の中に野菜の名前を答える項目があって当然ながら野菜の名前をすらすらと答えられるからです。

 日ごろから長谷川式をやっていた看護師さんも点数は高めに出ます。なぜかというと答えを知っているからです、(笑)。

 血圧の場合、八百屋さんであろうと魚屋さんであろうと血圧が180あれば治療法は同じです。

 画一的な治療法ができないところが、精神科医のむつかしさでもあり面白さでもあります。


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