社会医療法人財団白十字会 佐世保中央病院 病院長 碇 秀樹
1987 大村市立病院外科 1989 長崎大学第一外科医員 1991 佐世保中央病院外科就勤 1999 同診療部長
2009 同副院長兼外科診療部長 2011 同院長補佐兼外科診療部長2014 佐世保中央病院病院長 現在に至る。
平成3年(1991)から勤めて24年になる。今年4月から、植木前病院長の後任として就任した。これまでの4病院長と富永雅也理事長の「すべては患者さんのために」を継承するという。これから目指す方向を聞いた。
地域の急性期病院として、今後当院の担うべき役割は5つあると考えます。
1つ目は救急医療です。
現在年間約2千台の救急車を受け入れています。人口は減少しているのに、救急の対象になる患者さんは高齢化で年々増えていますね。
県北地区は11の病院で二次輪番を担当しているのですが、最近は多くの病院で勤務医の高齢化や医師不足が進み、救急医療に携われるマンパワーが低下しています。そんな中で、当院の責務は大きいと考えます。当院はこれまでの救急医療の取り組みが評価され、平成23年(2011)に社会医療法人の認定を受けました。今年度は救急外来の設備拡張工事を行ない、さらに県北の救急医療の一翼を担っていきたいと考えますし、その自負もあります。
次にがん治療があります。
救急医療だけに専念するという考えもありますが、地域のニーズもあり、また平成23年に長崎県がん診療連携推進病院の指定を受け、がん治療にも力を入れています。長崎大学や福岡大学、佐賀大学などから専門の医師を派遣していただき、専門性の高い医療スタッフと最新の設備(サーモトロンによる県内唯一の温熱治療を含む)を積極的に導入し、最善の診断・治療を目指していきたいと考えます。
3つ目は専門医療です。ちょっと贅沢ですけども、当院には、リウマチ・膠原病、糖尿病、消化器内視鏡、 透析、認知症の5つのセンターがあります。それぞれ高い専門性の求められるところで、先生方には引き続きがんばってほしいと思います。
4番目が、在宅に向けての連携です。急性期病院として生き残っていくためには患者さんの在宅復帰に向けてどのように取り組むかが問題になってきます。幸い白十字会は、回復期のリハビリ病院や介護老人保健施設、また訪問看護センターなど有しており、法人内の各施設、ならびに地域の診療所の先生方と連携して、患者さんを在宅に返せるような道筋を作っていきたいと。それが白十字会の強みだと考えます。
さらには予防医学として健診部門にも力を入れたい。当院の健康増進センターでは年間約1万2千人の方が受診しています。今後も質の高い健診を目指し、専門スタッフの健診支援を強めていきたいと考えます。
この5つを念頭に置きながら、同時に、それぞれの病院で担うべき役割をしっかり考え、地域での共存共栄を目指す必要があると思います。自分の病院のみの都合、利益を追求しても決して生き残れない時代になっていくと思います。佐世保中央病院が県北でどういったところを担うべきなのか、強みと弱みというようなところも明確にしていこうというふうに考えています。今年の診療報酬改定をみても、今後数年の間に大きく変わるのではとみています。
急性期の病院はこれから自然淘汰されてくると思うんですね。在院日数も早晩短縮されるでしょうから、今以上にスピーディな患者さんの退院が必要になってくる。そうすると、患者さんやご家族にしてみると追い出されるのかというイメージになってくるわけです。でも残念ながら医療費の高騰で逃れられないところです。いかにそこをどうサポートしていくかというところが大事なところです。「あとはそちらでお探しください」では当法人の理念にそぐわないですから、そこをどうやっていくか、百パーセントの満足ではないにしても、それに近いところのケアをしていこうというのが法人の考えです。
そのために入院や入所された段階から、患者さんや家族の背景を調べて、以後の対応を早いうちから検討することにしており、患者さんが入院して3日以内には必ず、今後の方向についてカンファレンスしていますし、病院全体やそれぞれの病棟でも情報交換を密にしています。そして関連施設も使いながら、なるべく最後は在宅で、の方向に行きたいと思います。
職員のモチベーションを高く保持しておくために、法人として独自に、資格取得奨励支援制度があります。資格を取ってもらうための支援で、最終的には評価にも反映します。そういう制度の中で7種類の「法人内認定看護師」というものがあり、カリキュラムに基づいて1年間勉強し、法人側が認定します。それは医師にとっても心強い頼れる存在です。
気持ちを高く持つためのポイントは3つあると思います。
1つは病院のビジョンを各自がしっかり把握して、それを達成する一員としてどれだけ貢献できるのかを考えることです。
私たち医療従事者は、患者さんやご家族から心からの「ありがとう」の一言をいただけるかどうかに尽きると思います。
2つ目は、自分の大切な家族や友人が病に倒れたり、悩んでいる時、自信を持って「ぜひうちの病院に」と薦められるかどうか。それは医師の技術のみでなく、温かい看護や、全職員が患者さんに寄りそった医療が提供できているか、そういう病院を全職員で目指したいと思っています。
3つ目は運動会などの院内のいろんなレクレーションを含めて、みんなが1つになれるような取り組みを今後も計画していきたいと思っています。
若い医師に私はいつも、常に謙虚であってほしいと言っています。
昔と違って学ぶ環境に恵まれ、早くからいろんな手技などが経験できることはすばらしいことです。その経験に基づいた自信は患者さんやスタッフから頼もしく思えますが、過度な自信は、大きな失敗の要因となります。「常に謙虚であれ」です。
先日、佐世保市内の看護学校で行なわれた戴帽式に初めて出席しました。非常に神聖でおごそかな印象を持ち、とても感激しました。あの姿が看護師を目指した気持ちでしょう。医療従事者は誰もが同様の気持ちで職に就いたはずです。その気持ちをいつまでも忘れずにいてほしいと思います。
そして、なかなか難しいことですが、「患者さんに寄りそう」ことについて学び、理解し、身につけてくれたらと思います。能力が高くてスキルもあって、てきぱきと仕事ができて評価もされ、しかしそれだけで充分なのか。ひょっとして笑顔と手際の良さの向こうに患者さんを置き去りにしているのではないかと、ちょっと立ち止まり、振り返って自分を見つめてみることも必要です。