中野会長は開会挨拶で、「骨折のように多様な病態を持つ疾患は、EBM(根拠に基づく医療)が作りにくいが、行政に要求をする時も、その有無は重要になる。困難だがエビデンスは我々しか作れないのだから、協力してほしい」と述べた。
6月27日と28日の両日、熊本市のホテル日航熊本、鶴屋百貨店東館、くまもと県民交流館パレアで、第40回日本骨折治療学会が開かれた。会長は公立玉名中央病院の中野哲雄企業長。事務局は同院の整形外科内に置かれた。応募演題数は758題。当初は500題に絞る予定だったが、会長が査読し全演題を採択した。主催者発表によると参加人数は1千824人。特設クロークが設けられるほど盛況だった。
次期学会は来年の6月26日と27日に、なら100年会館およびホテル日航奈良で開催される。会長は、市立奈良病院の矢島弘嗣副院長兼四肢外傷センター長が務める。
テーマは「エビデンスに基づいた骨折治療の確立」
会長講演では、今回のテーマに沿い、骨折治療におけるエビデンスの形成方法が説明された。座長は学会初代理事長である九州労災病院の糸満盛憲院長。
中野会長は「基礎研究よりも臨床研究が重要視される」などエビデンスの階層構造が説明したほか、妥当性が高いものをみつける研究の考え方などを示した。「MRIによる椎体骨折診断基準」の提唱をした時の経験を通し、「至適基準があれば検査の正確さの証明は容易だが、新しい診断が至適基準であることを証明するのは困難。新しい診断を正しいとするためには専門家の合意が必要で、そのためにエビデンスが必要」と改めてエビデンスの重要性を説いた。この提唱は骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインに採用されたほか、5学会による椎体骨折評価委員会で認められているという。
さらに、新しい手技や器具開発が認められる過程を、自身の経験を通して説明し「今後糸満先生が開発したスコーピオンプレートを超えるものを開発したい」と抱負も述べた。
演者紹介の際糸満院長は、「企業長というのは珍しい。聞けば理事長のようなものらしい」と、中野会長の玉名中央病院での役職について触れた。
また糸満院長を座長に、帝京大学整形外科学講座の松下隆主任教授=写真左がLIPUS(低出力超音波パルス)の骨折治療効果についてエビデンスを紹介し、適切な使用法について説明した。今回はエビデンスを得るための手段として条件を均一化させるため、手術の際に切った骨(骨切り術)への効果のみのデータが示された。なお松下教授によると、診療報酬要件の解釈は全国一律ではなく、骨切り術を骨折と解釈できるかどうかは地域によって異なるという。
マンスリー製剤への変更
座長の信州大学整形外科の加藤博之教授は、橈骨遠位端骨折患者の骨粗鬆症治療について講演する産業医科大学整形外科の酒井昭典教授を「データを示しながら科学的に講演をするスタイルは分かりやすく定評がある」と紹介した。酒井教授=写真左は橈骨遠位端骨折について「掌側ロッキングプレートの短期成績は骨折後早期に手術した群のほうが良い」、「女性患者における橈骨短縮は骨密度とは独立して2型糖尿病に関連する」、「50歳以上の女性患者は、開眼片脚起立時間が短い」などのデータを紹介した。
骨粗鬆症の治療剤については、デイリー製剤やウイークリー製剤よりも、4週に1回投与の薬剤に切り替える方が良いというデータを示した。12か月投与した場合、マンスリー製剤の治療継続率が76.5%なのに対し、ほかの2つの継続率は49.6%だったという。
熊本大学整形外科の水田博志教授=写真右を座長に、同大学呼吸器内科学の興梠博次教授=同中、同麻酔科学分野の山本達郎教授=同左が登壇した。水田教授によると、高齢者の骨折は全身管理が重要で、周術期管理に関する講演は中野会長が今回思い入れを持って組んだプログラムの1つ。興梠教授は大腿骨頚部骨折患者の死因として肺炎の割合が高いことを述べ、高齢者肺炎の診断、治療、予防について説明した。山本教授は高齢者への麻酔の選択方法や、術後痛の管理法を説明した。質疑応答の時間は長めに用意されたが挙手が相次ぎ、水田教授が打ち切らなければならないほどだった。