「医療こそ個別の対応であるべきなのです」

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福岡市立こども病院・感染症センター  院長  福重 淳一郎

1969 九州大学医学部卒業、小児科入局 1976 ~ 1979 テキサス小児病院循環器科勤務 1980 九州大学医学部小児科講師 1988 同教授 1999 九州大学医療技術短期大学部教授 2000 福岡市立こども病院・感染症センター院長 医学博士 日本小児科学会専門医、日本循環器学会専門医、日本超音波医学会専門医、専攻=小児科学、小児循環器学、小児保健

 ヤフオクドームの近くにある福岡市立こども病院・感染症センター(中央区唐人町2―5)が今年11月に移設する。こども病院は香椎照葉5丁目(アイランドシティ)に新病院として開院、感染症センターは近隣の病院に分散・移設されるという。新しいこども病院への期待を、福重淳一郎院長に聞いた。

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福重院長(中央)と宮崎芳之事務局長(右)、 堀川生美看護部長(左) ―5月20日、院長室で撮影―

 昭和55年の開院以来、駐車場が最大の懸案でした。入院、外来ともに、この病院を受診する子供たちのおよそ半数が3歳以下ですが、バスや地下鉄などで通うのは無理ですよね。

 今、外来受診は1日約300人ですが、調べてみますと約8割が車です。でも駐車場はその半分にも満たないのです。ですから新病院では300台以上の駐車用地を確保しました。

 ここで入院治療を要する子供さんの約7割が6歳未満です。受診の動向を見てみると、ほぼ半数が市外または県外で、遠隔地からの受診が多いことが分かります。

 当院の強みは何かといいますと、新生児や乳児の生まれつきの様々な疾患、特に心臓病や整形外科、あるいは泌尿器科関連の疾患への対応です。子供の心臓病に関しては九州、西日本で唯一と言える機能を持つ病院ですから、各地からの受入れ依頼件数が極めて多いわけです。それで新病院では緊急時のための病床も拡充整備しますし、万が一に備えてヘリポートも必要になります。

 当然、職員のお子さんも大切ですから院内保育所を整備します。また、遠隔地から受診されるご家族のために、病院構内に「患児家族滞在施設」を作ります。現病院にもありますが室数が不足していますので、3倍くらいの規模になります。

 病院本体と、ご家族のための施設、職員の福利厚生としての院内保育所は、小児病院を運営する上では三位一体だと思っています。

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ヤフオクドームの近くにある福岡市立こども病院・感染症センター

 いま私どもが、九州一円、西日本一帯の、治療の難しい心臓病などのお子さん方を一手に引き受けている大きな理由は、年間400例以上の心臓の手術をはじめ、職員みんなが頑張って、大変いい成績を上げてくれていることにあります。全国でも有数の成績を収めているのは非常に誇らしいことです。そしてそれを縁の下で支えているのは、麻酔科、放射線科などの小児医療のプロの面々です。しかし今の施設では狭隘(きょうあい)が顕著でした。新病院では、もっと実力を発揮できるものと期待しています。しかし、この地で30数年診療させていただいたことで、この周辺に生活圏のあるお子さんやご家族、あるいは職員には移転ということで不便になり申し訳ない思いです。

 当院の院長職に就いて15年目になり、少し長過ぎるきらいもありますね。でも、そのキャリアのほぼすべてを新病院に費やしてきました。着任して一週間目には新病院の構想を議論しましたからね。ですから、新病院は私にとっても一区切りです。

 やっと完成したという気持ちと、さあこれからだぞという気持ちと半々です。私は常々、次世代を担う子供たちに21世紀にふさわしい新病院を残そうと言っていますが、それはすなわち次世代の医療者に残すことになるわけですね。みんなで知恵を出し合い、先見性のある病院づくりをしたつもりです。

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新病院のイメージ図。患者家族滞在施設やヘリポートも備わる。

若いころ米国のテキサス小児病院に勤務していたこともあり、その後も英国等の小児病院の状況を見学したり、欧米の建築家の話を聞いたりしながら、私たちの合言葉である「時代にふさわしい、また時代を少し先取りした病院」を目指しました。

 新病院の全病床のおよそ3分の1が3階に集中しています。その3階には手術室があり、分娩室がありますが、新生児室、集中治療室、回復室を同じ階に集中させました。たとえ停電になっても同じフロアですから、人力でかなりのことがやれます。もちろんここには医師も看護師も重点的に配備します。

 そして、子供さんの病状によって適切な医療・看護水準を維持するために、一般病床の約9割が個室です。個室環境、すなわち準家庭環境で、プライバシーが守られます。私は「医療こそ個別の対応であるべき」というのが信念ですから。

 特に、難しいレベルの医療をマス(集団)として対応するのは間違っていると思っています。多くのサービス事業がありますが、医療こそ個別の対応と環境の整備が必要です。ここだけは譲れないところです。

 赤ちゃんは泣くのが仕事ですから、それを周囲に気遣いしなければならない療養環境は適切ではないと思います。子供たちは誰もまだ自立していないのですから、家庭をベースに考えて、家族の場を設定しない限り、心穏やかに治療できる訳がないじゃありませんか。

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上は現在の病院正面入口付近。下は構内に設置された東屋横に立つ親子像。「全部は無理だが、こういった大切な物はなるべくたくさん新しい病院に持って行きたい」と福重院長。

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 小児科医になって30代半ばで帰国して、小児科に限らず、人生の最期の時間を過ごされる方にも、ご家族との空間を整備しなければ、配慮ある療養環境とはいえないのではないかと、ずっと思ってきました。

 私の両親は鹿児島県内で小学校の教師をしていました。母は専業主婦へ転じましたが、鹿児島は離島も多く、3、4年ごとにあちこち回り、桜島の小学校の校長が父の最後の奉職先でした。私も両親にならって教師の道があったのでしょうが、小6の時に、父の教え子だった方から諭されて、大学受験は本当に悩みました。最終的に医学部を目指し、卒業時に小児科へ進んだのは、両親が子供を教育していた影響もあったのでしょう。ほかの科はほとんど眼中になかったです。

 医師に大事なのは教師機能だと思っています。分かりやすく説明し、うまく伝え、若い人たちを育成し、ご家族をも啓発することが求められます。

 趣味は下手の横好きでいろいろあります。若い頃はテニスも、また大学時代はサッカーの試合中に2日連続で救急車の世話になりました。音楽も大好きで、大学では軽音楽バンドをやっていました。最初に触ったのがウクレレ、そしてハワイアンギター、それからエレキギターやクラシックギター、また、最近買った楽器はサキソフォン、孫と遊ぶための再度のウクレレです。

 何人かで音を作るのは、レベルはそれぞれ違っても、一度味わうと忘れがたい魅力がありますね。

 当院でもこれまでクリスマス会や七夕会を開催していますし、子供たちに音楽を楽しんでもらいたいのですが、今は本当に狭すぎて、練習さえままなりません。新病院では隣に広い公園もありますから大丈夫でしょう。

 幸いなことにここで治療して大きくなったお子さんの中に楽器を演奏される人もいます。ホノルルにお住まいでウクレレの祖であるハーブオオタさんの御子息にこの病院で演奏して頂いたこともありますし、近隣の方でゴスペルを定期的に歌ってくださったり、ピアノ演奏など、多くの方々から暖かい心遣いを頂いております。職員の中にも楽器に親しんでいる人がずいぶんいるようですから、皆で音を作る楽しみを味わう機会を作り、できれば私も参加したいと思います。

 人は自分のプロローグを親などから聞いて知ることができます。そしてこれまでの人生を思い出すこともできます。でも、誰も自分のエピローグは語れません。ですから、医師を目指している若い人は、あまり自分勝手に思い込んだり、思い悩んだりしないほうがいいでしょうね。それよりも好奇心旺盛に、ビー・フレキシブル、何事に対しても柔軟であってほしい。

 一生、小児科医である必要もないし、最初に選んだ診療科をずっと続けなくてもいい。

 これからの時代は予防医学が徹底すれば、不要な診療域がでてくるかもしれないのです。ですから、引き返す勇気も必要です。

 次世代を担う若い人達には、一度しか生きられない限られた時間の中で、さまざまな価値観を経験し、いろいろ場所を訪ね、たくさんの知己を得て、狭い地球を広く生きることを勧めたいものです。


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