独立行政法人 労働者健康福祉機構 長崎労災病院 院長 福崎 誠
佐世保市にある長崎労災病院は1957年に開設。設立当初からの労災医療のほか勤労者に関する医療と、県北地域における地域医療の拠点、救急医療を担っている。今年4月に就任した福崎院長は、多忙にも関わらず、快くインタビューに応じてくれた。
―病院の特徴は。
労働者健康福祉機構の中の労災病院の位置づけで、一番の特徴は勤労者医療です。働く人の病気の予防活動、治療活動、職場復帰に取り組んでいます。また地域の中核医療機関としての役割も担い、二本立てで活動しています。
地方の病院が抱える共通の問題は医師不足です。院長になってからは、大学の医局に赴き、医師集めに奔走しています。長崎大学、佐賀大学、産業医科大、福岡大学などにも声をかけていますが、なかなか確保がむつかしいのが現実です。
先日、全国の労災病院長の会議が行われ、特に東北地方で麻酔科医不足が深刻だとのことでした。麻酔科医がいないと手術ができず、収益が落ちます。急性期病院を維持していくには大きな課題です。さいわい当院には、私も含め6人の麻酔科医が在籍し、手術、ICU、救急をやっていますが、それでも手一杯の状況です。1人か2人しかいない病院はたいへんだろうと想像します。
大学の医局に女性の比率が高まっていますが、結婚、出産などで家庭に入ってしまい、現場復帰ができないケースが多々あります。当院はワークライフバランスに留意して女性医師を積極的に採用する取り組みを行なっています。
院内託児所の設置、時間短縮などにも取り組んでおり、実際にリハビリテーションと麻酔科の女性医師が時間短縮の枠内で勤務しています。
女性医師が働きやすい環境をセールスポイントにして各大学の教授にアピールをしています。少しでも女性医師に復帰してもらい、医師の確保ができればと考えています。政府も女性の社会進出、登用を推進しています。どの業種も同様だと思いますが、病院においても例外ではありません。
長崎にはあじさいネットワークという、ITを活用した医療ネットワークがあり、今年で創立10周年を迎えます。
当院が電子カルテを導入したのが一昨年の12月で、去年の5月からあじさいネットワークに参加しました。
佐世保医療圏は、佐世保市、平戸、松浦が入り、佐世保市内は佐世保市立総合病院、佐世保共済病院、佐世保中央病院などの病院が役割を果たしてくれます。我々は県北の平戸、松浦などの病院と、あじさいネットを活用し、連携を深めていくことが必要だと思っています。
―院長として将来の抱負を。
勤労者医療と地域医療の両立と研究の推進です。専門医師の確保と上位施設基準の取得は良好で健全な病院経営には必須です。
就任1週目は病院のビジョンを職員に話し、2週目、3週目は医師集めのため大学病院へのあいさつと周辺の病院まわりをしていたので、くたくたです。(笑)
当院は小児科と産婦人科がありません。在院日数の短い科が少なく、整形外科、脳外科など在院日数が比較的長い科が主流です。
看護師は現在7対1の体制ですが、診療報酬改定で、在院日数とともに基準をクリアするのがたいへんになりました。今後の抱負はそれを必ずクリアすることです。
9月いっぱいで亜急性期病床が廃止されます。在院日数を短縮するために病床跡に地域包括ケア病棟を設置することも今後の取り組みです。
佐世保地区は急性期後のリハビリが順番待ちの状況です。そうなると在院日数が長くなり、手術件数が減る悪循環に陥ってしまいます。
地域包括ケア病棟では当院で手術した患者さんのケアも行ない、早期の自宅復帰を促す役割を担っています。
―職員に求めること、意識してほしいこと。
自分自身のスキルアップをしてほしいと思います。医師には認定医の制度があります。看護師にも認定制度があるので、積極的に受けてほしいと考えています。病院からも金銭面を含め最大限のバックアップをします。
チーム医療で、質の高い安全な医療をするのが、当院の理念でもあり基本方針でもあります。
職員のみなさんが研修、研究会を通して自分を高めてくれることを願っています。
―若い医師へのメッセージ。
今の若い人は積極的に知識を吸収する姿勢に欠けていると感じます。自分の時間を犠牲にしてでも研究、臨床などに取り組んでほしいと思います。特に研究活動は継続して行なってもらいたい。麻酔科では毎年、海外の学会で英語の論文を書き、発表をしています。それらの活動を通じて視野を広げることが必要です。
現在の初期臨床研修制度では、大学に残らず、外の病院に行く人が多くいます。医局から離れてしまうので、学位に対する研究ができません。医局に戻って研究を再開すればいいのですが、そこで研究をストップしてしまう人がほとんどです。
臨床だけではなく、ぜひ臨床研究にも取り組んでほしいと思っています。研究を怠ると単なる技術屋になってしまいます。論文を読み、学会に行き、絶えず勉強をして、それをいかに臨床に応用するかを考えてほしいですね。