世界を視野に入れた大学病院へ

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九州大学病院長  石橋 達朗

今春就任した九州大学病院・石橋達朗新病院長に展望や抱負を聞いた。

1975 九州大学医学部卒業 九州大学医学部眼科学教室入局 1977 九州大学医学部大学院( 病理学教室) 入学 1981 同修了 九州大学医学部附属病院眼科助手 1984 南カリフォルニア大学、ドヘニー眼研究所に留学 1986 帰国後、九州大学医学部附属病院眼科講師、同大学医学部助教授、同大学院医学研究院眼科学分野教授を経て2014九州大学病院長。専門分野=網膜硝子体疾患、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性 ■所属学会 日本眼科学会理事長、日本網膜硝子体学会理事長、日本糖尿病眼学会理事、日本眼循環学会理事など

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九州大学病院長  石橋 達朗

―まずは展望をお聞かせください。

 すべての患者さんを満足させることは難しいかもしれませんが、医療の基本ともいえる九州大学病院の理念「患者さんに満足され、医療人も満足する医療の提供ができる病院を目指します」を基に、ご家族も含めた患者さん中心の医療を目指していきます。

 また、働く人が満足できるシステムを構築することも重要です。優秀な職員の能力を活かし、病院を発展させることで、西日本地域やアジアを中心とする海外に向け、医療を提供することができると考えています。世界を視野に入れた九州大学病院を目指しています。

 社会保障制度改革で、これまで国単位で行っていたことが県や市といった地域行政に委譲されています。今後は県などとうまく連携を取り、地域医療に深く取り組めるのではないかと期待しています。

―国際化についてはどうお考えですか。

 これからのキーワードは「国際化」です。全国病院長会議の中で九州大学病院は国際化の役割を担っています。2008(平成20)年10月に開設したアジア遠隔医療開発センターでは、インターネット技術を駆使し、諸外国の基幹病院との間で遠隔医療教育を行い、最先端手術の映像、内視鏡外科手術の様子などの医学知識をアジア全体で共有し、日常的に情報交換を行っています。

 現在、欧米やアフリカ、南米を含む世界46か国、310の施設(2014年3月末時点)との間にネットワークをつなぎ、いつでも海外とコミュニケーションがとれる体制を整えています。今後は本院の国際医療連携室とも協力して、海外からの医療人の受け入れや、医療相談、患者搬送にも役立てていきたいと考えています。

 さらに福岡市が国家戦略特区・創業特区に指定され、新たな起業と雇用を生み出す取り組みと期待されています。中でも医療特区における国際化がカギとなっています。今後、医師や患者さんを海外から呼んで、医療連携のネットワークを密にすることなどが可能となります。

―大学病院の役割についてお聞かせください。

 大学病院は診療・研究・教育の3本柱で成り立っています。最近は診療に重点を置いて研究に時間が割けないという大学病院が多いようですが、九州大学病院では3つすべてをしっかりとやらなければならない使命があると考えています。

 これまで基礎研究は、ともすれば自己満足で終わってしまうことが多々ありました。研究のための研究ではなく、その成果を患者さんにお届けするのが我々の使命です。本院にARO(AcademicResearch Organization)次世代医療センターがあり、ここでは多くの職種に渡って幅広い専門家が協力し、基礎研究から臨床研究へと未来の医療の開発という目標に向かって日々活動しています。

 また、診療では高度医療を西日本地域やアジアに提供することです。がんなどの難治性疾患、救急、移植医療に対する最高水準の診断や治療の提供、それを支える基礎や臨床研究の強化を図っていきたいと考えています。近い将来には、再生医療、遺伝子治療の実現なども大切になってくると思います。今後さらに診療と研究のバランスがとれた高度な病院機能の構築が必須です。

 3本柱の中でも特に重要なのが教育です。今年で10年目を迎える臨床研修制度は、プライマリ・ケアの観点からみると大切なことですが、長い間医療現場を見てきたものとしては、首を傾げたくなるような部分もあります。

 現在の臨床研修システムでは医学部を卒業してからの初期研修2年間は、東京や大阪などの大都市の病院に行く研修医が数多くいます。しかも昔の医局制度では、お目付け役がいましたが、今は責任の所在がなく、研修医が甘やかされているようです。もっと議論を深めて、より良いシステム造りが急務だと思われます。

 初期研修2年のうちの少なくとも1年は大学病院でしっかりと研修することで、大学病院の優秀な医師と間近に接し、さまざまな問題を解決する能力が備わり、さらに研究志向を持った医師へと成長できるのではないかと考えています。将来は大学を背負い、日本、ひいては世界の医療をリードする医師が一人でも多く輩出できればと願っています。

 現在は成績の良い学生が医学部に進学する傾向があるように見受けられますが、医師は患者さんと接する職業なので、コミュニケーション能力も大切です。

 また、基礎研究に進む人が少なくなり、博士号より専門医を取得したい人が多く、例えば医師免許を持った解剖の教授は10年後にはかなり少なくなることが危惧されます。将来を考えると非常に危機感を持っています。

 今後、医学部、歯学部、また保健学科などの教育をしっかりしなければ、大学病院全体が地盤沈下していくように思われます。

―九州大学病院独自の活動にはどう取り組まれますか。

 「きらめきプロジェクト」という女性医師が働きやすい職場環境を作る取り組みをしています。出産・育児・介護をかかえた女性医師・歯科医師だけでなく、さまざまな事情で常勤の継続が困難な医師・歯科医師に支援を広げ、そのキャリアの継続を九州大学病院独自の取り組みとしてサポートしています。

 その背景には、近年女性医師の割合が増加し、「医療」は女性の力に依存する度合いを増してきています。より良い医療を築き上げるためにはすべての医療人が十分な能力を発揮できる体制や働きやすい環境を作っていくことが、これからの医療界の課題です。そのためには我々ができることを実現していきたいと考えています。

―病院経営についてお聞かせください。

 九州大学病院の病床数は別府病院と併せて1415床で、全国立大学病院の中でも1番です。スタッフみなさんの努力のおかげで、手術件数が10年間でプラス35%、もうすぐトータルの手術件数が1万件を超えるまでになり、新規入院患者数も増加しています。

 診療実績はあがっていても、消費税増税や診療報酬改定があり、厳しい状況です。今後もしっかりと収益を上げることで新しい医療機器を購入し、職員を充実させ、患者さんに満足される病院となっていきます。

 経営に携わるのは初めてのことですが、スタッフにも恵まれ、今後も職員一丸となってよりよい病院づくりにまい進していくつもりです。

 病院長職に就いて多忙な毎日ですが、私を頼って来られる患者さんもいますので、寸暇を惜しんで診療しています。今後も医師としても、患者さんのために頑張っていきます。

【記者の目】

 昨年の1月、石橋病院長が会長を務めた第36回日本眼科手術学会総会を取材した。「地方のアクティビリテイが上がるので、誘致はがんばったほうがいい」と言われたのが印象的だった。

 今回は大学病院の病院長という立場で、記者も緊張して取材に臨んだが、以前と変わった様子はなく、情熱をもって希望を述べられた。

 変わったことといえば、眼科の未来ではなく、九州大学病院の未来を語った姿だろうか。

 以前にも増して多忙になったそうで、病院長就任を期に経営者にシフトするのではないかと記者は予想したが、経営を重視しつつも、臨床を離れるわけではないという。腕のたつ医師一人を九州大学病院は失わずに済んだようだ。患者さんにとっても朗報だろう。 (平増)


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