大分大学医学部 腎泌尿器外科学講座教授 附属病院副病院長 三股 浩光
大分大学医学部腎泌尿器外科学講座は1982年に大分医科大学泌尿器科学教室として創設され、2004年から第3代教授として三股教授が就任した。
臨床面では、腹腔鏡下手術を中心とした低侵襲手術に取り組んでいます。
当大学の北野正剛学長は世界内視鏡外科学会と日本内視鏡外科学会の理事長を務めています。
腹腔鏡手術が始まった当初から外科は北野学長が、泌尿器科は野村芳雄教授が熱心に取り組んできた歴史があり、高く評価されています。
最近では単孔式腹腔鏡下手術に取り組んでいて日本で2番目、西日本では最初に開始して全国でトップクラスの成績を挙げています。また一昨年にダヴィンチを導入し、ロボット手術も行なっています。
がんの治療、結石治療、腎不全、腎移植など地方の大学病院として、必要とされる領域は一通りカバーしています。
基礎研究では当大学の分子病理学教室と共同で、腎細胞癌のゲノム異常の研究、外尿道括約筋幹細胞の再生医療の研究をしており、これは世界でも類がなく、国内外から高く評価されています。また前立腺癌の研究にも力を入れています。
―単孔式腹腔鏡下手術を西日本で最初に始めたそうですが、利点は。
最も適しているのは副腎腫瘍、骨盤内の疾患です。へその部分に一か所だけ2センチほどの穴を開けて副腎摘出、膀胱の部分切除など行ないます。傷が小さく目立たないので、美容的にも優れ、低侵襲の手術です。
最近では、単孔式ではありませんが、下着で隠れるように恥骨の上の皮膚に3ミリの穴を2か所開けて、腎臓を摘出する手術に力を入れていきたいと思っています。特に生体腎移植のドナーには傷が小さく、疼痛が少ないので有効性があります。
―力を入れたい取り組みは。
九州人工透析研究会の会長を拝命しましたので、これまで以上に腎移植と慢性腎不全に力を入れていきます。
高齢化社会を迎え、介護や在宅医療がますます重要となっています。高齢者の介護・在宅医療での大きな問題のひとつに排尿トラブルがあります。私は大分県排尿リハビリテーション・ケア研究会の代表世話人を務めていてコメディカルの人たちに排尿・排泄のアドバイスをして地域の在宅医療に少しでも貢献できればと考えています。
―ダヴィンチのメリットは。
人間の手より精密で手ぶれがありません。従来の腹腔鏡下手術では、鉗子の動きが制限されますが、人間の手首の関節に相当するエンドリストは360度以上回転し、人間の手より大きく動かせます。直感的な操作が可能で自分の手と同じ感覚で手術ができます。3次元のカメラにより奥行もつかみやすく、経験が少ない医師にとっては手術の難易度が下がったのではないでしょうか。
現在保険適応は前立腺癌のみですが、先日、腎臓の部分切除手術を一例、行ないました。腎門部に埋もれている4・1センチの癌と内科的な腎疾患を合併している患者さんで、右側の腎摘出を行なうと将来、腎不全になる確率が非常に高く、患者さん本人も腎臓内科の担当医も部分切除を希望しました。従来の手術では一度腎臓を取り出さないと部分切除が出来ませんが、ダヴィンチだと穴を6か所開けるだけで、体内で切除できます。
患者さんへの身体の負担も少なく、この手術も数年中には先進医療に認可されると考えています。
―医局で海外留学を積極的に勧めていますね。
日本にいるとしがらみやしきたりに縛られ、固定観念で頭が凝り固まってしまいますが、外国に行くと自由な考え方が出来ます。住む場所が変わればこれほど考え方が違うのかと驚きを禁じえませんでした。
地方にいるとどうしても大都市に対してひるんでしまいますが、欧米に行くと、東大出身者も九大出身者も大分大出身者も関係がなくなります。
アメリカではハーバード大学やイエール大学など超一流大学の教授や学生と普通に話しますし、講演会では、教科書でしか見たことがないノーベル章受賞者が質問に答えてくれ、自分たちと同じ人間として話せます。
外国に行くと島国根性がなくなります。自分も努力すれば世界トップレベルと同じステージに立てると自信が持てます。日本で感じていた、世界との差は、実はありません。
―休日の過ごし方は。
なかなか休みが取れず、今年も1日くらいしか休んでいません。子供が小さい時は家族でドライブするのが一番の楽しみでした。子供が大きくなってからは家庭菜園をやっていましたが、最近は忙しくてあまりできませんね。今は犬の散歩をして気分転換を図っています。
―これからの夢を教えてください。
現在、副院長職に就いていますが、来年の任期を全うしたら研究に専念したいと思います。国際会議などに出席し、がんや外尿道括約筋の勉強をしたいですね。やはり専門分野が一番面白いので、役職にはなるべく就かずに研究と臨床をがんばっていくつもりです。