産業医科大学病院副院長 産業医科大学脳神経外科教授 西澤 茂
「神の手」はありません。たゆまぬ努力を
2月21日(金)と22日(土)の2日間、福岡市のアクロス福岡で「第24回日本間脳下垂体腫瘍学会」が開催される。メインテーマは「コントロール良好例と不良例―その違いを検証する」。
A・B・Cの3会場に分かれ、活発な論議が期待される。学会長を務める産業医科大学医学部脳神経外科の西澤茂教授に、意気込みなどを聞いた。
―脳神経外科学を選ぶ学生は多いですか。
残念ながらあまり多くはありません。脳神経外科に限らず外科系そのものを選ぶ学生が減っています。
一人前になるまでには厳しい経験を積まなければならないこともあり、段々と少なくなっているのは事実です。なかなか多くの人に集まっていただくのは難しいですが、さいわいにも現在は複数の人たちが脳外科に入っていただいているので、そういう若い人を育てていきたいと思っています。
「患者さんに優しく、自分に厳しく」というのが私のポリシーで、患者さんを自分の家族と思い、家族だったらどんな治療をするのかを考えてやりなさいといつも言っています。
もう一つは、入院されている患者さんの症例の一例一例が、自分自身が勉強するための宝の山なので、決して無駄にするなと言っています。自分で疑問を持ち、上級医師から言われたことに対して徹底的に調べることをしない限りは、成長しないぞとも言っています。
医師は、このレベルに達したらそれで終わり、ということはありません。何歳になっても努力を続けなければ、これから来られる患者さんに対応していくのは難しいと思います。医師という職業は、極めたり、悟りを開くようなことではないと思います。その意味からゴッドハンド(神の手)はありません。
―第24回日本間脳下垂体腫瘍学会について。
間脳下垂体腫瘍というものは外科的にも内科的にも治療が難しいところがありますので、脳神経外科医だけでなく内分泌内科医、病理、基礎医学者が集まって行なう学会です。シンポジウムを8つ組み、海外からもドイツのHelmut Bertalanffy教授と、台湾からYu-ShuYen 教授を招待して特別講演も予定しています。
Helmut Bertalanffy 教授は「頭蓋咽頭腫の外科治療」、「視神経―視床下部グリオーマの外科治療」について、Yu-Shu Yen教授は「間脳―下垂体腫瘍に対する神経内視鏡手術 ‒update」について講演します。
国内からは埼玉大学国際医療センターの松谷雅生先生が「胚細胞性腫瘍治療の現状と将来(仮)」、独立行政法人国立病院機構京都医療センター臨床研究センター長の島津章先生には「機能性下垂体腫瘍に対する最新の内科的治療(仮)」を、そして産業医科大学医学部公衆衛生学教授の松田晋也先生から、「間脳下垂体腫瘍―DPCから見た解析(仮)」について講演していただく予定です。
―会長としての意気込みは。
機能性下垂体腫瘍と申しましてホルモンを産出する下垂体腫瘍があるのですが、手術で完全に取りきれないと全身の状態が治りません。9割取ったからといっても、ホルモンが正常化しないと全身の状態は治りません。それをいかにして取り除くか、取りきれなければいかに内科的にコントロールするかといったことを徹底的に討論していこうと思っています。
―学会成功に向けて。
今回のメインテーマは「コントロール良好例と不良例―その違いを検証する」です。同じように治療して手術し、同じように内科的な治療をしても、結果が必ずしも同一にならないケースがたくさんあります。臨床でよく経験するんですが、それが手術のちょっとした差によるものなのか、内科的な治療の差なのか、あるいは腫瘍側に原因があって、いわゆる分子生物学的にその腫瘍の性格が違うことによって差が生まれるのか、そのあたりを掘り下げるシンポジウムを組んでいます。
参加者にはシンポジウムや一般講演で発表してもらい、徹底的に討論する場を提供させていただいて、間脳下垂体腫瘍に悩む患者さんに今後さらにより良い治療を提供できるようにするのが狙いです。
―脳神経外科の魅力は。
脳神経科の手術は結果が一目瞭然です。例えばすごく大きな腫瘍の方でもほとんど症状が出ないケースがあります。手術をして万が一うまくいかなかった場合、意識障害や麻痺などの後遺症が出ます。うまくいけば症状が良くなるので成否が一般の人にも分かりやすく、手術に魅力を感じることが出来ると思っています。
手術がうまくいくことで、患者さんの社会復帰に貢献できるところにもやりがいがあります。ただ、手術は難しくて時間もかかるので、それなりの苦労はあると思います。しかし経験を積んで、ある一定のレベルに達して成功し、患者さんが元気になった時のよろこびは大きいと思います。