九州大学病院小児救命救急センター 賀来 典之助教
九州大学病院に小児救命救急センターが開設されて10か月になる。6床の小児集中治療室(PICU)を設置し、5人の小児担当医を中心に、救命救急センターや小児科各専門グループ、他の診療科、看護スタッフ、臨床工学技士などと協力・連携し、小児救急医療の「最後の砦」として、24時間体制で、新生児期以降のすべての重篤な小児のケアと治療にあたっている。同センターの賀来典之医師に状況を聞いた。
救急医療は医の原点
九大病院は百年の歴史で培った「総合力」で救急医療に全力を傾注し、アジアの災害救急医療の拠点を目指しています。
福岡空港や博多駅から10分程度で到着が可能で、高速道路からのアクセスもよく、国からは広域災害時の支援が期待されています。
日常の救急医療でもあらゆる分野の患者に24時間体制で対応できるようにしています。
「医の原点は救急医療から」をモットーに、小児救命救急センターでも、内因・外因問わず、集中治療管理が必要とされる小児症例すべてを対象として診療し、九大病院としての総合力を十二分に発揮できるよう、チーム医療に心がけています。安心して診療を任せて頂き、満足して社会復帰して頂けるよう、今後とも頑張っていく所存です。
全国で8施設という数は、拠点になる病院がそれくらいしかないということです。
時間外診療という意味での救急は、数は多いですが、重症度はたいてい低いです。我々が担っているのは、数は少ないけれども重症度の非常に高い子供さんです。
これまでも重症のお子さんを、日本のどこかの施設で診ていたんです。それが子供病院のICUだったり、大学病院や地方の基幹病院の小児科病棟だったりするわけですが、いろいろ調べてみると、1歳から4歳までの死亡率が、主要国の中でもかなり高いんです。ほかは低いんですよ。
高い原因の1つは、いろいろな施設で分散して治療を行なっていることが挙げられます。他の先進国のように、拠点で集約して重症のお子さんを診ていこうと、平成22年から始まったのが、厚生労働省の小児救命救急センターの事業です。
いろいろな施設が、まれな重篤な小児救急患者を数少ない医療スタッフで、普段はほとんどやっていないような管理で治療すると、患者さんにとってもよくないだろうということで、やはりこのような体制を作っていくことが重要だと思います。
―子供は固有差があり過ぎますよね。
急変しやすいのは実際にあるでしょうが、先進国ではそれがきちんと診られているわけです。そこは症例数も必要になるでしょうね。
―福岡県外の地域はどうなりますか。
まだ当センターへの県外からの患者さんの紹介は数少ないのが現状です。現時点ではそれぞれの圏内の大学病院や基幹病院へ患者さんが送られているのでしょう。これからの患者さんの搬送体制の確立に我々もしっかり取り組まないといけないと思っています。また、この拠点の数も、現在は全国に8か所しかありませんから、これから増えていくんだろうなと思っていますけれども。
―拠点の数がまず大事なんでしょうか。
中身がないままそろえてはいけないですよね。ではそれだけの施設があるのかと問われると、むつかしいでしょう。
それなりの症例数と病院内の体制、あるいは病院外との連携ができているかどうかも重要です。
―少子化との連関は。
重症の小児の救命救急というのは、ある一定数は必ず発生していて、そこを専門的に担当している人がいなかった状況があったわけです。最近ようやく、どうにかしようという状況になってきたような気がします。私にも子供がいて、救急にかかることもありますから、その想いで軸足がここにあるわけです。子供は元気になっていきますから、やりがいはありますね。
―大変な苦労を背負ったという感覚はありますか。
子供に限らず、困った人がいればやらなければいかんなと思うし、患者さんがよくなれば、ああよかったなと思います。
全国8施設の中で唯一、大学病院の救命救急センターという自負はあります。小児科5人を含めて21人の常勤医が「重篤な小児救命の最後の砦を自覚して九州大学病院小児救命救急センター 賀来 典之助教小児救急患者は必ず受け入れる」という決意でいます。我々の施設が断ったら子供たちの行き場がないですから。
―「最後の砦」という言葉の持つ意味は大きいですね。
それだけに、これまでいろんな施設が苦労し、疲弊や無理を引き起こしていたんです。拠点化によって、搬送体制や周辺地域との連携が向上していけばいいと思います。