九大百年講堂で開かれた高校生向けのがん講座に、男子中学生が一人参加していた。講演終了後に大学の門の前で偶然話した。
父親と二人で来ており、「息子に頼まれて九大に無理を聞いてもらった」と父は言った。息子は私に、「医者になりたい。でも情報が足りないので、今日は来てよかった。後半から理解できるようになった」と、意志を固めた者特有の落ちついた目で私に告げた。父親は医者ではないそうだ。
なぜ医者になる決心をしたのかとたずねると、「幼いころ体が弱かったから」と中学生は答えた。自分を診てくれた医師に強く感化されたようだ。
ちょうど同じ時刻に百年講堂の別会場で、九大病院子どものこころの診療部主催の児童青年精神医学専門研修が行なわれ、全国から児童精神科医など75人が参加していた。
そこに講師として招かれたロンドン大学精神医学研究所のKah Mirza 医師が、希望について、「先の見えない未来に的を定め、それに向かって矢を射ようとする時、彼の小さなスキルすべてが彼を助ける」といった内容の話をしていた。
私は父親に、息子さんが医者になれば多くの人に好かれるだろうと話し、地下鉄駅に向かって歩きながら、医者になる理由は人それぞれで、それよりも、どんな主治医だろう、一度会ってみたいものだと思った。(川本)