公益社団法人福岡医療団 たたらリハビリテーション病院 院長 平田 済
―地域との結びつきを重視する病院だと聞きました。
毎年秋に「健康まつり」をやっていまして、地域住民を中心に1500人くらいが集まります。
地域の方々も参加して踊ったり、中学校のブラスバンドが演奏したり、いろんなサークルの出し物もあります。職員はテントで売店を担当し、健康チェックも行います。
今年は開設10周年になるので「タタリンピック」と名付け、博多の森体育館の「アクシオン福岡」で大運動会を行ないました。地域の方々も老若男女が参加して盛り上がりました。
病院というのは地域があってこそなので、医師と患者、チームと患者そして家族という関係のほかに、病院と地域、地域の中でどんな信頼を受けるかが大切だと思うんです。
当院は元々、慢性期の病院で、リハビリと緩和ケアがメインなので、患者さんはほとんどが急性期の病院やがんの拠点病院から紹介されて入院してきます。病院のポジショニングとしては「急性期の病院と自宅とを橋渡しする」という色合いが強いですね。
その中で、地域にどのように役に立つかを考えた時に、これからは高齢者の医療と認知症のケアが大切だと感じています。病院の医療活動の柱として位置づけ取り組みを進めているところです。
先日も「認知症の人と家族の会」の主催で、啓発活動の一環として天神でビラ配りがあったのですが、うちの認知症委員会のメンバーがお手伝いに行きました。
私は緩和ケアに携わっていますが、認知症のケアを考えた時に両者はとても共通している点が多いと思いました。その人を中心に考えること、家族のケアが大切、コミュニケーションとチームでの取り組みが必要などが挙げられます。
緩和ケアも認知症も医師だけが中心になって采配を振るうのではうまくいきません。緩和ケア病棟ではリハビリのスタッフが主催して、毎週火曜日に「季節の会」という催しをしています。患者さんや家族が集まって、ホットケーキを作ったり、体操やゲームをしたり、作品を作ったりします。個室に閉じこもりがちな患者さんや家族同士がふれあう貴重な機会になっています。それが、医師としてもやりがいがあるし、病院全体としても大きな目標につながっていくものと感じます。
―医師としてやりがいがあるというのは。
医師として支える面もあるかもしれませんが、それよりもチーム全体としてサポートすることによって、チームリーダーとしての医師のやりがいにつながるということでしょうか。さらに言えば、患者さんの人生から「学ばせていただく」という面もあります。
がんの終末期であったり認知症であったりする場合は、患者さんや家族にとって、人生や生活のありようも大きく変わり、これまでの人生が凝縮された状況になります。そこに関わらせていただくことは、やりがいを感じることです。少しでも力になれればいいのですが。
―緩和ケアに携わる人は心が相当タフなんでしょうね。
難しいですね、緩和ケアに携わる医師も看護師も燃え尽き症候群で離脱する人はいます。当院も例外ではありません。
人は誰でも死を迎えるわけですが、そこを心から理解して自分の死生観を持って、少しでも患者さんやご家族の人生に関わるんだという姿勢を持つことができれば、亡くなることは悲しくても自分の心に受け止めることはできるのではないかと思います。
たとえば、患者さんが看護師に怒りをぶつけてくることがあります。その時「ああ、怒りを表現できてよかった」と思えればいいと思うんです。現場ではなかなかそうはいかないけれども、みんなの前でこうだったと報告するだけでも違いますので。
―福岡医療団で働いてほしい医師像はありますか。
社会で暮らす人の有り様や、社会の仕組みを知ることでしょうか。医療の世界は人対人なので、人を大事にする気持ちがないと難しいでしょうし、それは福岡医療団に限らず、すべての医療従事者に求められることではないかと思いますね。