4月から新病院長 国立大学法人 熊本大学副学長・附属病院長・眼科教授 谷原秀信
先月号の日隈陸太郎熊本県眼科医会会長との対談に引き続き、熊本大学の谷原副学長に登場してもらい、眼科分野の教授としてだけではなく、熊本大学附属病院の院長としての思いを聞いた。
―院長としての今後の方向性をお聞かせください。
国立大学病院は、国民の血税によって構築されています。国が政策として、国民のニーズに応えるために作っているわけですから、それを意識して運営すべきです。
大学病院の使命として、「診療すること」「人を育てること」「先進医療を開発・導入すること」の3つの柱は大変重要だと思っています。その3つをバランス良く発展させていきたいですね。
この3つに共通して必要なことですが、患者さんに対して暖かい視線を持った、心優しい医療従事者達が集う病院であって欲しいと思います。先進医療の開発は大事ですし、病院の経営も大事ではありますけれども、患者さんへの思いやりやシンパシーがあって初めてそういうことが言えるんだと思います。ですからそこを大事にしたいと考えています。
また、大学病院は地域の病院との競合を避ける方向で、特化すべきだと考えています。そして大学病院だからこそ出来る研究や、医療の提供をやっていくべきですね。
―経営にとらわれて、やりたいことが出来ないという話も聞きます。
やりたいことをやるために、経営はすごく大事なんですよ。
熊本大学病院の事業収入は210億円ほどで、交付金などを入れると270〜280億円の財源規模なんですが、これは大学内でも大きなウエイトを占めます。ですから、大学病院の経営が不安定だと、当然他学部を含めた大学自体の経営が不安定化します。
それと共に、最新医療が導入できなくなる、導入した機器の安全管理が疎かになるなど、大学病院ならではの高度医療を提供する能力が低下することになります。そうなれば本末転倒です。
患者さんの苦しみに共感できる人を育てたいと思いますが、あくまで医療人としての技量と経験と、それが充分に発揮できるだけの設備があっての話なので、良き医療従事者を育てて高度医療を提供するためには、安定した経営が大事だと思っています。
もちろん、経営のために安全性を疎かにしたり、患者さんの心情を無視したりする病院であってはならないですね。
―熊本大学病院は、硝子体手術の症例数が全国的にも多いそうですね。
熊本大学は大学自体の歴史が長いのでOBやその関係者が多く、同窓会のネットワークが非常に厚い。特に連携が密な地域です。そのため熊本の眼科では、硝子体手術や緑内障といった失明のリスクがある専門性の高い高度な手術は、大学病院を中心に集中的にやっています。そして白内障など、限定的な器材でも行なえる手術は、関連病院や連携病院でやってもらっています。
私自身の学問的興味としては、失明性眼疾患の患者さんを救いたいという思いがあります。今、日本の失明原因の1位は緑内障で、2位から4位までが網膜の病気です。ですから私の研究室ではそれらを1番大事な研究課題としています。網膜症手術の設備なども揃えていただき、九州圏から高度な手術を受けに来ていただける態勢が有ります。
―熊本は角膜移植が盛んだそうですね。
角膜移植は最初に行われた移植医療で、現在も角膜の再生は進歩しています。熊本県は全国に先駆けてアイバンクが出来た場所でもあります。
アイバンクはすでに全国組織で、今後どう拡充させていくかが課題なのですが、臓器移植法で脳死や臓器移植がクローズアップされたことで、逆に角膜の提供が減ってしまったという残念な事態があります。
―熊本大学医学部の学生に対してアドバイスはありますか。
熊本大学は旧制五高、ナンバースクールの伝統があります。学部で言えば、細川藩の藩校であった再春館の流れがあり、先達としては有名な北里柴三郎もいます。そういう伝統を背負っていることを覚えていてほしいですね。そして是非、熊本の良いところをもっと知って、地域に貢献できる医師に育って下さい。
―では、若い医師に向けてアドバイスを。
医療技術の進化が早くなったので、情報リテラシーは重要です。初期研修の段階で正しい知識を得て、相談できる先輩を見つけ、間違いを出来るだけ早く修正していく。学習のスタイルを、その時に学ぶことが必要です。
私の専門領域の眼科では女性の比率が上がってきていますが、女性は出産や育児といったライフイベントと、医師としてのキャリアパスをどう整合させていくのかを考えることも、大事になってくると思います。
―眼科は女性の比率が多いのですか。
眼科学会の新規会員の比率は1対1。半分は女性です。眼科が一番増えているのではないでしょうか。皮膚科や麻酔科、小児科も多いですね。