検疫所は国内に常在しない感染症の侵入防止の役割を担っています

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厚生労働省福岡空港検疫所支所 支所長/医学博士 安藤正郎

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厚生労働省福岡空港検疫所支所 支所長/医学博士 安藤正郎

 検疫所の仕事として、国内に常在しない感染症の病原体が航空機や船舶を介して侵入することを防止する検疫業務、輸入食品の安全性確保を行なう輸入食品監視業務等があります。ここでは検疫業務についてお話しいたします。

 福岡空港の国際線は1日約30便の飛行機がアジアを中心に行き来しており、1日約4千人から5千人が入出国しています。検疫所は入国者の中に体調が悪い人がいないかどうかを確認し対応しています。

例えば、入国の前にサーモグラフで体温を確認する「スクリーニング」を行っています。

 スクリーニングで分かるのはあくまで皮膚の表面の温度ですから、インフルエンザにかかっていたとしても、熱が出ていなければ分かりません。感染症には潜伏期間がありますから、検疫の検査場を無症状のまま通過する入国者もいることになります。検疫感染症が流行している地域からの入国者には質問票に記入していただくこともあります。体調が悪い方には詳しく話を伺って、専門の医療機関への紹介や病状によっては搬送などを行ないます。また入国後に症状が出た場合、速やかに医療機関を受診するように案内をしています。これは、昔の検疫所には隔離施設がありましたが、今はすべて廃止になり、成田空港や関西空港にもないためです。

 抗生物質の登場により感染症は撲滅したかにみえましたが、細菌が薬に対する抵抗力をつけたり、更に未知のウイルスや遺伝子が変異したウイルスの出現により、致死率が非常に高い感染症が流行する危険は絶えずあります。新たに発見されるウイルスや細菌にも宿主がいるはずですが、それが何かがわからない場合が多く、SARS( サーズ) が中国を中心に流行した時には、ハクビシンではないかと言われましたが、結局わからずじまいで終息してしまいました。

 最近では多くの日本人が仕事や観光、ボランティア等で渡航します。そのため、様々な感染症に感染して帰国する可能性が高くなっています。

 検疫所では、発熱等で体調の悪い方に検査を行なっています。蚊を媒介とする、マラリア、デング熱、そしてチクングニア熱という主に熱帯地域で多くみられる病気です。中でも、熱帯熱マラリアは治療が遅れると死亡する確率が高いので、体調の悪い人が入国時に申告していただければ、検査によって早期に診断ができ、引き続き医療機関で早期に治療することができます。さらに鳥インフルエンザA(H5N1及びH7N9)に感染の疑いのある入国者には検査をして、万が一感染していた場合は、自治体・医療機関等と連携して治療していただきます。

 検疫所でも調子の悪い方から情報を聞き出して、それをフィードバックしていきます。これは臨床の先生と一緒だと思います。基本的に人との会話、コミュニケーション能力が大切な仕事です。入国する際に体調不良で不安な人に、頼りになる印象を持ってもらうことが大切だと考えています。

 いま福岡空港の検疫所に常駐している医師は私1人で、時々もう1人が応援対応しています。また看護師は3名の態勢です。朝一番の飛行機が7時半、最終は夜9時半です。検査も医師の指示のもとに進みますから、医師の存在は大きいです。

 当支所も医師不足で、現在、医師を募集中です。シフト制の勤務で深夜の急な呼び出しはない環境なので、特に女性の医師は働きやすいのではないかと思います。

 私は元々は臨床で外科系の仕事をしていましたが、厚生労働省に入り、今は厚生労働技官という立場です。福岡空港に来るまで名古屋(港)と中部空港、成田空港で勤務していました。

 福岡空港は、就航している国が東アジアや東南アジアに集中していますが、到着地を経由して、アフリカや中南米とつながっているかもしれないと認識して仕事をしています。

 旅行医学の統計によると海外旅行で1番多くかかる病気は渡航者下痢症です。原因はさまざまで、例えば日本は軟水で旅行先は硬水ですと、水の硬さが合わないだけで調子が悪くなってしまう人もいます。辛い食事や油っこい食事でダメになる人もいます。睡眠が充分にとれなければ抵抗力も下がることもあります。

 もちろん、本当にコレラ、赤痢、チフスといった感染症でお腹をこわす人もいます。お腹の具合が悪い人は便の検査をしないと正しい診断が出来ません。ですから病院で便の検査をして、治療する必要があります。

 医師に海外旅行したことを告げず、お腹が痛いとか熱が出たとだけ言われてしまうと、マラリアなど国内に常在しない病気に感染していた場合、検査診断が遅れることになります。実際このため亡くなったケースもあります。医療従事者は問診で海外渡航歴を積極的に聞く必要があるかもしれません。

 当支所では、毎週一回、黄熱の予防接種を実施し証明書を発行しています。黄熱は野口英世が研究のためアフリカに渡り、自らが感染して亡くなった病気です。現在、黄熱が流行している中南米やアフリカ諸国への入国、また流行国から第三国へ入国する場合、黄熱の予防接種を実施した証明書を要求される場合があります。つまり黄熱の予防接種は東南アジアではなく、中南米やアフリカ諸国に渡航される方が対象となります。この予防接種は日本では基本的に国の機関である検疫所で実施しています。九州では福岡、門司、福岡空港、長崎、鹿児島の各検疫所・支所で行っています。

 留学や赴任、さらには冒険旅行など活動内容によっては他の予防接種が必要な場合があります。検疫所では出国する前の予防接種の相談業務も行なっています。

 さらに検疫所の仕事としてあまり知られていませんが、感染症の媒介となる蚊やネズミ、ダニ、ノミが貨物に紛れて侵入し、港や空港付近に生息していないかを定期的に捕獲調査をしています。

 先日ある病院の医師とお話をした時に、渡航予定者から予防接種について問われて、何をどうアドバイスしていいか即答できなかったと言われました。検疫所は渡航者への感染症の情報提供も業務として行っておりますので、渡航に関する予防接種や感染症の予防など分からないことがあれば是非お尋ねください。

福岡検疫所福岡空港検疫所支所
福岡空港国際線旅客ターミナルビル2階
TEL:092(477)0215
http://www.forth.go.jp/keneki/fukuoka/

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