自立できるやさしい日本へ 失敗の活かせる文化が必要

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九州大学大学院精神病態医学分野教授  神庭 重信

1980 慶應義塾大学卒、1993 慶應義塾大学講師、1996 山梨大学精神神経医学講座教授を経て2003 九州大学医学研究院精神病態医学分野教授。
「気分障害の診療学」(中山書店) 「精神科診察診断学」(医学書院) 「精神医学文献辞典」(弘文堂) 「TEXT 精神医学」(南山堂) 「気分障害」(医学書院) 「Advanced Psychiatry」(金芳堂) 「こころと体の対話-精神免疫学の世界」(文芸春秋社) 「女性とうつ病」(医薬ジャーナル社)などがある。

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―次の学会の主眼は。

 今、各都道府県で精神科医療をもっとよくしようという計画が進められています。それに合わせて今後の精神科医療をみんなで考えて、それぞれの先生が持っている宿題を、ここで改めてディスカッションできる機会にできればと思います。

―精神疾患が増加しているのはなぜでしょう。

 年々精神科医療のニーズが高まっているのを感じます。職場でも学校でもどこでも、うつ病をはじめとして非常に身近な問題になってきているようです。全面的に悪い現象だとも思いませんが、非常に不安定な状況ではあります。

 効率主義や成果主義で職場に余裕がなく、当然、一定の割合で倒れてしまう。そこであわてて職場のメンタルヘルスだとか言い出すのですが、あとの処理だから、なかなか解決しない。一定の比率で負傷兵が出るのはやむを得ないという合理主義の考え方です。ではそれをどうするのかと僕らに聞かれても、作業量を減らせば企業が倒れて、元も子もなくなってしまう。

―外国も同じような状況ですか?

 外国で起こっているとすれば韓国でしょうね。自殺率が日本を抜いて世界トップクラスです。

 経済危機があってもギリシャやイタリアは自殺が増えていません。ヨーロッパは徐々に沈んでいるから、それなりの文化が出来て、メンタリティも体も慣れているんです。

 でも日本人はかしこいから、不安定な移行期を通り過ぎると、また日本流の生き方を見つけると

思います。「こんな在り方があってもいいんじゃないか」という姿や人生観を国が示せば、企業や教育現場もそれに倣っていくでしょう。

 アメリカの方がうつ病の有病率は日本より高いです。ただ、アメリカがいいのは、あの競争社会がいきなりできたわけじゃなく、建国の時から少しずつできていますから、会社で一度ダウンした人をどうするかというシステムが国の中にあるんです。しばらく失業保険をもらって次の職場にチャンスを見いだせる。「一度だめでもいいや」と思いやすい。ところが日本では、一度だめになってしまったら、もう自分は何もない、と考えてしまうわけです。

 日本流の合理主義と経済を作ることが出来れば、もっと人間にソフトな考え方とか文化制度ができると思います。アメリカ型の経済をゆっくり取り入れてくれたら日本型に修正したグローバリゼーションにできたのだけど、バブルがはじけて経済が低迷し、急速にグローバリゼーションを取り入れた。それで今だめなんです。たぶん韓国もそうです。アメリカ型の「俺が俺が」の世界が入ってきたら、負けた連中は「俺は必要ないんだ」と思いますよ。

 欧米だったら失敗しても、「俺が金を出すからもう一度やれ」と言う人がでてくる。そういうメンタリティが日本の社会経済システムにあると、もう少し生きやすくなると思います。

 若い人たちに起業意欲がないのは自己防衛なんです。堀江さんが捕まったのは大きいでしょう。いくら「起業しろ起業しろ」と言われても、「あんなことをしてダメだったら居場所がなくなる」となる。違反は違反で裁けばいいので、あそこまでヒステリックに叩く必要はない。だからみんな、今は一流企業志向でしょう。いろんな会社で働けば雇用も広がりますが、一流企業ばかりすごい競争率で、内定が決まらないこともあります。

―授業で道徳を教える話もありますね。

 人間を作ろうと思っても難しい。「打たれ強いことをよしとする」みたいな話から、失敗を恐れないとか、失敗してもどう再チャレンジするかとか、そういう話から入った方がいいような気がします。自主性をもっと尊重して、自分の道を自分で築いていくための道具として教養があり、語学があり、宗教があり、体育があるんだ、という考え方です。

 だから家庭の影響もすごく大きい。ただ、子供たちを育てる親の世代が、バブル期に苦労しないで育った。それで、しょうがなく学校で、という話になっているのかもしれません。

 一番は自立していくということです。自立した中で他の国との付き合いもあるし、他人との付き合いもある。自立力の弱かったところへ、強固な自立を当然とするグローバル社会に、急になった。今の日本で精神科の戸を叩く患者さんが増えていることと繋がっていると思います。

―緊急の課題は何ですか。

 初めにも言いましたが、グローバル化の中で日本がいかに人にやさしいカルチャーを作れるかにかかっていて、「うつ病の患者が発生したら早く診る」という話では追いつかない。これが精神科の現場からの声です。一方で、自立力について言えば、子育てともつながります。とくに、道徳に限らず、初等中等教育には力を入れなければなりません。さらには家庭を含めて、社会の価値観も変わっていく必要があります。

第109 回日本精神神経学会学術総会

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「世界に誇れる精神医学・医療を築こう―5疾病に位置付けられて」

■会期2013年5月23〜25日。会場=福岡国際会議場、福岡サンパレス。会長=神庭重信、副会長=中村純(産業医科大学教授)

■参加資格・参加費(当日登録)日本精神神経学会会員=1万5千円、非会員(医師・研修医)=1万7千円、非会員(医師以外の医療・保健・福祉従事者)=6千円、学生(大学院生除く)=2千円、ユーザーおよび家族=5百円。■総会URL=http://www.jspn109.org/

 運営事務局=㈱JTBビジネスサポート九州ICS営業部内。


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