学会の結果を心に刻んで帰ってほしい

  • はてなブックマークに追加
  • Google Bookmarks に追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • del.icio.us に登録
  • ライブドアクリップに追加
  • RSS
  • この記事についてTwitterでつぶやく

九州大学先端医療イノベーションセンター長 橋爪 誠
先端医療医学講座災害救急医学分野教授

55.jpg

■1979 九州大学医学部卒業、同第二外科入局、1998 同第二外科助教授を経て、1999 同大大学院医学系研究科災害救急医学教授、2003 九州大学病院先端医工学診療部部長兼任、2006 同病院救命救急センター長兼任、2010 九州大学先端医療イノベーションセンター長兼任、現在に至る。
■インテリジェント治療をめざしたロボット手術システムに関する研究に従事し、2006 年度文部科学大臣表彰科学技術賞受賞、2007 年度グッドデザイン賞、2007 年度今年のロボット大賞優秀賞および審査員特別賞受賞、2010 年 Best Paper Award of International Conference on Advance Mechatronics ほか。
■日本外科学会、日本消化器外科学会、日本腹部救急医学会、日本門脈圧亢進症学会、日本コンピュータ外科学会、日本消化器内視鏡学会などに所属。

1月20日号でイノベーションセンターの高石繁生医師を取材した時、ここにはダ・ヴィンチなど珍しいものがいくつもあるから、センター長を訪ねてみたらと言われた。そこで、3月13日から福岡で開かれる日本腹部救急医学会総会の大会長として準備に忙しい橋爪誠センター長に時間を作ってもらい、イノベーションセンターは何の施設かと質問してみた。

ひと言で言えば「先端医療分野の研究成果を、一日も早く医療の現場に届けるための施設」です。

日本の国立大学で初めて、異分野の産学研究者が集まって、研究開発から臨床試験まで一つの施設で実施することができます。

その背景として、日本の研究開発力や技術力は非常に優れているのですが、実際に製品となって日本から海外に出て行くことが非常に少なくて、現場で使っている医薬品も医療機器も、70%近くが海外のものという現実があります。

これほど高い技術がありながら、どうして日本製品が出てこないのかが、ずっと問題視されてきました。

いろんな原因があるのですが、一つには、日本だけの小さなマーケットで考えていて、それを事業化しようという企業がなかなか現われない。海外の企業はリスクを自ら取ってグローバルに展開しているわけですね。今の医療界はそれができない構造的な問題を抱えています。

研究開発したものをきちんと臨床試験して薬事をちゃんと通し、スムースに事業化できる人がまだ育っていないし、すぐ使える規約や制度も整っていない。またそれを一貫してやれるような施設もない。今まで「死の谷」、デス・バレーと呼ばれていたところ、高い技術力と事業化との間の深い谷を埋めるのが、イノベーションセンターの最大の目的です。

そのために、従来のような研究者だけの集まりではなく、企業や、工学系など、いろんな人に来てもらい、いっしょに構築していこうとしているわけです。

―どんな研究チームがあるんですか

6階建てのセンターに、プロジェクト部門、臨床試験部門、教育研修部門、渉外企画部門の4部門があり、プロジェクト部門には

①低侵襲ロボット医療

②スマートDDS

③幹細胞再生医療・細胞療法

④分子イメージング

⑤インキュベーション

のセクションがあります。

さらに共同研究として4つの部門があり、高石先生(=准教授)には、癌に対する免疫細胞療法を中心とした研究をお願いしています。

この4部門には大手企業がそれぞれスポンサーになっています。従来の寄付講座と違うのは、あくまで共同で成果を求めるという点で、成果を企業が確実に製品化に向けて動くということです。早く製品化して患者さんに届けようという強い意志がみんなに共通しているわけです。

もうじきメイドインジャパンの医療ロボットが製品化されるでしょう

―橋爪先生は我が国でロボット工学の草分けとお聞きしました

我々は今、メイドインジャパンの医療ロボットを、国のプロジェクトで作っているんです。昨年9月に発表しましたが、脳外科手術用のロボットとか、耳鼻科や胸部外科用、腹部外科用のロボットを他国のパテントとは競合しないようにして製作しています。今はそれを事業化するステップに入っています。従来のロボットは人間の手の動きを再現しているだけですから、あまり面白くない。それにインテリジェントな機能をつけた価値の高いものを作ろうとしています。私は全体のプロジェクトリーダーをやってきて、今年度には消化器用機器が現われ、一、二年のうちには製品化されると思います。

―3月に開かれる腹部救急医学会の、大きな位置づけは何でしょう

56.jpg

まず、学会の特長が横断的だということです。外科、内科、放射線科、そして救命救急の医師が出席する学会で、かつ若い人の登竜門として位置づけています。ですからタイトルも、エデュケーショナルミーティングとしました。若い人たちが救急領域の患者さんにきちんとした診察ができる基本的な考え方や技術を身につけてもらうと同時に、最新の知識も横断的に学んでもらう場にしたい。

学会員が5千人以上いますので、そこそこ来ていただけるのではないかと期待しています。プログラムもできて、ホームページも立ち上げてあいさつを載せたところです。

学会がうまくいったかどうかの評価は、すぐにその場では得難いかもしれませんが、各会場での熱意のこもった討論がどれくらい行なわれているか、それがプログラムの組み方でぜんぜん違って来ますので、会場に入っていくと若い人がたくさんいて、どんどん手を挙げて質問している姿を見ると、やってよかったと思いますね。学会の結果というものは目に見えない形で現われます。頭に入って心の中に刻まれますから、それ以降の彼らの診療の仕方、あるいは取り組み方が変わってきます。エデュケーションというのはそういうことです。みんなの熱い姿を見れば何かを感じ取ってくれると思います。

心に刻まれるというのは大きいと思いますね。中には福岡はおいしいものが多いからという理由で来る人もいるでしょうが、出席してみると、救急領域は大事なんだなとか、なるほどこうするのか、こういう考え方があるのかと、たくさん勉強して帰るんですよ。

違った人たちの違ったやり方、違った考え方に触れることができるのが、横断的な学会のいいところでしょうね。参加した人が感動し、胸に突き刺さる学会になればうれしいですね。

【記者の目】

取材の趣旨とは別に、この人なら答えてくれるかもしれないと思う質問がふと浮かぶ。橋爪教授をインタビューする中で「医学がこのまま進歩したら、人はいつ死ねるのですか」「医師の死生観はどんなものでしょう」といった突然の問いに、橋爪教授はむしろにこやかに、緊張を崩し、世間話でもするかのように話してくれた。患者とコミュニケーションすることの本質的意味、ぶきっちょでも好かれる医師と有能なのに好かれない医師の違い、間違った選別の末に医者になろうとしている人のこと、欧米と日本の根本的な教育の違いなど、表情をゆるめて語る姿に静かな情熱を感じた。さらに、挑戦を避けたがる日本人特有の気持ちは、先人になろうとする人を生み出すシステムがないからという話や、なぜ米国にダ・ヴィンチが作れて、日本はかなわなかったのかなどについて会話は尽きず、気がついたら予定の時間をずいぶんオーバーしていた。(川本)


九州医事新報社ではライター(編集職)を募集しています

九州初の地下鉄駅直結タワー|Brillia Tower西新 来場予約受付中

九州医事新報社ブログ

読者アンケートにご協力ください

バングラデシュに看護学校を建てるプロジェクト

人体にも環境にも優しい天然素材で作られた枕で快適な眠りを。100%天然素材のラテックス枕NEMCA

暮らし継がれる家|三井ホーム

一般社団法人メディワーククリエイト

日本赤十字社

全国骨髄バンク推進連絡協議会

今月の1冊

編集担当者が毎月オススメの書籍を紹介していくコーナーです。

【今月の1冊, 今月の一冊】
イメージ:今月の1冊 - 88. AI vs. 教科書が読めない 子どもたち

Twitter


ページ上部へ戻る