永続願う「様付け」
厚労省の「医療サービス向上委員会」が2001年、医療はサービス業だから、患者の名前に様を付けて呼ぶよう国立病院に求めたという。それが現場で「患者様」になろうとしているようだ。
一般に様付けするのは、王様とかお妃様、殿様、庄屋様、あるいはお客様みたいに、相手がその状態であり続けることが、こちらの安泰と繁栄につながる場合である。だから、神様とは呼んでも、悪魔様とは言わない。
その観点から見れば、患者に「様」を付けると、「医療側の繁栄のために、ずっと患者のままでいてほしい」ということになり、医療の本来の目的とは異なる。
私個人としては「患者様」よりも、「患者」と吐き捨てるように呼ばれたい。「患者と言われたくなかったら、早く治ってみろ!」、「ようし治ってやる!」というのが、医師と患者と病気の関係だと思うのである。
「患者への様付け」に寸考もなく飛びつくと、そこから派生する「接遇教育」も珍妙なことになる。様付けは、相手を高く持ち上げて高座から降ろさないようにするから、医療者が患者のしもべになる構造を自ら作り出すことになる。そうしておいて、聞き分けのない患者が近ごろ増えたとこぼす。「いつかどこかで聞いたことのある、猫なで声の接客態度」にも注意が必要だ。(川本)