肝疾患で苦しむ人を減らしたい

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熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学教授
熊本県肝疾患診療連携拠点病院肝疾患センター長   佐々木 裕
熊本大学医学部附属病院光学医療診療部部長

昨年の5月20日号で、佐賀県が人口比あたりの肝癌の死亡率が12年連続してワースト1位だと伝えた。佐々木教授に伺ったところ、熊本県を含む九州各県でもまた、肝癌の死亡率は全国平均に比べて高いのだという。それは肝炎ウイルスの節目検診でも如実に現れており、九州の各県は全国平均よりも高いそうだ。今回は佐々木教授に、肝癌とその前癌状態である肝炎について聞いてきた。

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【Profile】
●ささき・ゆたか=昭和54年大阪大学医学部卒、大阪大学医学部附属病院研修医、大阪厚生年金病院内科医員、大阪大学医学部第一内科助手、カルフォルニア州立大学サンジェゴ校医学部薬理学教室客員研究者、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院癌センター分子肝臓病学研究室客員教授、大阪大学大学院医学系研究科分子制御治療学助教授などを経て、平成15年熊本大学医学部内科学第一講座教授、熊本大学大学院医学薬学研究部消化器内科学教授。平成21年熊本県肝疾患診療連携拠点病院肝疾患センター長、熊本大学医学部附属病院光学医療診療部部長、平成22年熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学教授。
■日本肝臓学会理事、日本肝臓学会熊本県責任者、日本消化器病学会財団評議員。

日本には、B型肝炎のキャリアが110〜140万人、C型肝炎のキャリアが200〜250万人くらい存在すると予想されますが、その中で約150万人の方が慢性肝炎を患っていると考えられます。また40万人ぐらいの方がさらに進んだ肝硬変に。これらの患者さんの中で、肝癌で毎年4万人弱が亡くなっています。これに肝不全や消化管出血も含めると、毎年5万人くらいが肝臓の病気で亡くなっていることになります。

B型肝炎の治療法としては、インターフェロンを注射する場合と、核酸アナログ製剤を服用する方法とがあり、ウイルスを減らすことが出来ます。

C型肝炎もインターフェロンを中心とした治療が行なわれています。日本で治療が始まった1990年代前半では、ウイルスが消える確率は5%程度でしたが、その後治療法が発達し、リバピリンという抗ウイルス剤とペグインターフェロンという週1回の注射を組み合わせた2剤併用療法では、6割後半の確率でウイルスが消えるようになりました。そして一昨年の11月からテラプレビルという新薬が使えるようになり、リバピリン、ペグインターフェロンと併用した24週間の3剤併用療法では、以前の治療で一旦ウイルスが消えてから再燃した方なら9割ぐらい、また全然効かなかった方でも3割の方には有効であることが分かりました。今後はこの3剤併用療法がメインになっていくでしょう。しかしテラプレビルでは皮膚症状の副作用が強いので「肝臓学会の専門医と皮膚科の専門医が連携しなさい」と、厚生労働省が認可の際に異例の通達を出しました。そこで熊本県では、私と熊大皮膚科の教授とが相談して、両方の専門医が常勤している5医療機関に限定して3剤併用療法を始めました。今では少し感触がつかめてきたので、常勤同士でなくても連携が取れれば良いというふうに治療できる施設を増やしてきています。今までに全国では6千人ぐらい、熊本県では200人ぐらいがこの治療を受けていますが、幸いに熊本県では重篤な副作用が問題になったことはありません。

肝炎の治療薬はすごく高いもので、以前は簡単に治療が出来ませんでしたが、今は国と県が医療費を助成する制度があるので、大半の方は月に1万円くらい払えば大丈夫です。

肝癌は治療しても再燃や再発が起こり、患者さんの予後は依然不良です。そこで我々は、根治的治療後の再発抑制を目的に非環式レチノイドというビタミンA誘導体の臨床治験に参加しています。また、東京大学(現、シカゴ大学)の中村祐輔教授と肝癌ワクチンの共同研究も行なっています。肝癌ワクチンは細胞傷害性T細胞を体内で増やして肝癌を攻撃するというものですが、現在、症例を集めており近いうちに効果を判定します。肝癌治療の選択肢を広げるためにも、巧くいってほしいですね。

私は2005年に「熊本県肝臓病認定医を含めた熊本県認定肝臓病医療支援システム」というものを作ったんですよ。肝疾患で苦しむ方が少しでも減ってほしいですからね。その理由としては、県内には肝臓学会専門医が80名くらいで、人口に対して少ないうえに熊本市周辺に偏在していることから、郡部の患者さんに対応することが必要だと考えたからです。

これは大学、県庁、県医師会が連携した熊本県独自のシステムで、肝臓病認定医は熊本県の認定ということになります。

肝臓病認定医の先生は現在200人弱でしょうか。認定医の先生方をCTやMRIなどの画像検査で支援する施設も一緒に認定しました。このシステムは肝疾患診療の均てん化を目指すもので、肝炎だけではなく、肝硬変や肝癌の治療に対しても、肝臓病認定医と大学や基幹病院が連携して治療にあたることができるようになりました。

その後、厚生労働省は、肝疾患診療連携拠点病院を各都道府県に設けて、地域の基幹病院や肝臓学会専門医などと連携をしなさいと指導するようになりました。肝疾患診療連携ネットワークと呼ばれるものですが、熊本には既に熊本県認定肝臓病医療支援システムがありましたので、スムーズに移行できました。先ほどお話しました助成制度を患者さんがうまく受けるためにも、あらかじめシステムを作っておいたのは良かったと思いますね。ネットワークの事業のひとつとして、熊本県肝臓病認定医や非専門医を含めた医療従事者のための講習会を開いています。また、一般向けに啓発活動を行ったり、県民からの肝疾患に関する相談窓口も熊大病院に開いています。肝炎患者サロンも県と協力して開催しています。

毎年行っている日本肝臓学会の肝がん撲滅運動も、最近ではネットワークと連携して行っています。去年はロンドンオリンピックの開会式の翌日に、肝がん撲滅運動市民公開講座を開きました。例年は5月の終わりの肝臓週間にやっていたのですが、WHOが7月28日を世界肝炎デーに定めましたので、暑いのですが、この日に(笑)。

いずれにせよ、一般の方に肝疾患についてもっと知識を持っていただきたいですし、また一度は肝炎ウイルス検査を受けていただきたいです。保健所等で無料の肝炎ウイルス検査ができますので、是非とも活用して欲しいですね。


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