「こないだ、患者だった人の還暦祝いをやったんですよ」

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鮫島病院 鮫島 健

この人に聞いてみよう、ということがある。 当紙でキャンペーンを張ったらどうかと言った精神科医もいるくらい、理由がわからないものらしい。

佐賀市富士町のやや高台にある鮫島病院。ここに、日本精神科病院協会名誉会長で九大精神科同門会の会長でもある鮫島健院長がいる。

「新型うつ病と、なぜ年間3万人の自殺者が減らないか」。冒頭にそう尋ねてみた。

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【Profile】
九州大学医学部卒
1964 九州大学附属病院神経精神科助手
1975 国立肥前療養所副所長
1982 鮫島病院を開設し院長(228床 )
1992 社会福祉法人健寿会理事長
■主な公職=1989 厚生省公衆衛生審議会専門委員会委員、1990 佐賀県精神病院協会会長 。1994 日本精神病院協会常務理事、2001 社会福祉法人佐賀いのちの電話理事長、2004 日本精神科病院協会会長、2004 厚生労働省社会保障審議会医療部会委員、2010 日本精神科病院協会名誉会長などを歴任
■表彰=1997 精神保健福祉事業功労、2000 社会保険診療報酬支払基金関係者功績でそれぞれ厚生大臣表彰、2008 旭日中綬章受章

新型うつ病の話なら、神庭先生にお話をお聞きするのがいいんじゃないですか(笑)。

たしかに新しい薬がたくさんできたし、政府も10年くらい前から真剣にうつ病対策をやっています。にもかかわらず自殺者が高止まりのまま減らないのは、いろんな原因があると思いますよ。

診断基準についてはアメリカでも問題になっているらしく、普通の人がうつ状態になって病院に行くと、今の診断基準ではうつ病と診断されます。

普通の人の普通の反応をうつ病と言っていいのか、ということが最初にあるわけですよね。

かつては臨床経験の豊かな名医が患者さんのいろんな面を見ながら診断したものですが、今は研修医でも診断基準を片手にチェックしていけば、うつ病かそうでないかの診断がつくようになっています。

うつ病にも、典型的な大うつ病とかエピソードなど病名がいくつもありますが、状態だけ見て、うつ病だと診断できるようになった。これがうつ病患者を増やしている原因ではないかと言う人もいるわけです。

それに拍車をかけるように、副作用が少なくて効果の期待できる新しい抗うつ剤が次々に出てきて、うつ病に対する関心の高まりの中で、一般内科でも薬を出すようになり、使ってみたら少しよくなったので、やはりそうだった、みたいになって、そういったことも重なって倍増しているのかもしれません。

もう1つは、景気が悪くて失業率が高くなるのと並行して自殺率も増えているなどの社会的現象もあるわけだから、診断基準だけの問題でもないでしょうね。

新型うつ病はこのような背景のもとで、比較的若い人に増加しています。昔の典型的なうつ病とはちょっと違うんです。たしかにうつ病の症状をいくつか持っていて、現在の診断基準ではうつ病と診断できるかもしれませんが...。

それと双極性障害(=躁うつ病)も増加しているんです。不思議なことに、不景気な時に躁状態は増えるみたいですね。

高度経済成長の時代に躁病はあまりなかったんですよ。不景気になるにしたがって双極性障害やうつ病が増えていますから、社会的な背景もかなり関係するのかもしれません。そういった状態をひっくるめて気分障害というんですが、外国でも同じような状況が起こっているようです。

自殺については、いろんな悪条件の中でうつ病になり、それが引き金になることは多いんじゃないでしょうか。うつ病がなくなればかなり減るはずです。普通の精神状態なら、死にたいと思っても実行はしないでしょう。

私が若いころの患者さんで、この人は将来どうなるんだろうと思われるような方でも、普通の生活ができるようになった人がずいぶんおられます。今も現役で元気に働き、たまに外来で来られて当時の話になることがあります。

そのうちの1人に、こないだ還暦を迎えた方がいて、何人かのスタッフといっしょに還暦祝いをやったんですよ。お昼ご飯を食べに行っただけですが、すごくよろこんでくれました。彼は大学生の時に発症し、自分の将来をちゃんと見て、高望みをせずに着実な人生を選択したんです。

彼を見ていると、将来を現実的に考えて、一歩一歩生きていくことの大切さに気がつきます。今の人にそれはあまりないのではないでしょうか。

医者は患者さんに対して万能感を持ちがちです。いくら自分を律しているつもりでも、患者さんの言葉に、「そんなはずはない」と思ってしまうんです。だけど患者さんの言い分が正しいことも多いんですよ。だから素直に聞くようにしています。その方が治療もうまく行くような気がするんですよね。

医者は病気を治すのではなく、本人が治そうとする努力を手助けするわけですから、それをじゃましないようにしなければなりません。でも私がそれを分かるようになったのは、還暦を過ぎたあたりからでしょうか。そのころから素直に考えられるようになった気がします。

今はチーム医療の時代です。医者よりも看護師やコメディカルスタッフの方が患者さんにつきあう時間は長く、病棟の清掃スタッフが患者さんの状況をいちばん知っているような場合もあるわけです。それをすべて見渡してのチーム医療だと思いますね。

【記者の目】
今年1月から11月までの全国の自殺者数は、前年同期比で9.8%少ない2万5千575人だったことが、警察庁の統計で分かった。1997年以来、年間の自殺者が15年ぶりに3万人を下回る可能性が強まった。その発表を知って鮫島院長もよろこんでいるに違いないと思った。何人かの精神科医の取材で、自死が話題になった。記者にはにこやかだった鮫島院長もつらいことが数多くあったのではと思う。昨年8月20日号で石蔵病院の石蔵禮次郎院長(故人=福岡市中央区)が、治らないことに悲観して自殺した患者を忘れられないと言い、「次に生まれ変わることができたら、また精神科医になりたい」と語られていた。そのことを鮫島先生に話したら、「先生とは大学で同じ研究室でした。太宰治が好きだったですね」と目を細められた。(川本)

関連リンク【患者のための精神科病院 明日に向かう15病院の実践


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