「職業癌労災申請の時効撤廃を」と産業医科大学の熊谷准教授
11月14日、福岡市博多区の福岡県医師会館で、第40回福岡県産業医学大会が開催された。主催は福岡県医師会、福岡県産業医学協会、福岡ブロック医師会。
最初に福岡ブロック医師会世話人の江頭啓介福岡市医師会長が、「労働者の健康管理対策の推進と労働安全衛生政策の、普及・向上を目的として開催され、今年で40回目の節目を迎える歴史ある大会」とあいさつ、来年度の労働安全衛生法改正で、事業主に労働者のメンタルヘルス対策の強化が義務付けされる予定であることに触れ、労働環境の変化にともない、多様化する疾患に対応するため、今後も福岡ブロック医師会は福岡県医師会、福岡県産業医学協会と協力し、産業保健の充実と向上に努めると述べた。
続いて県産業医学協議会長の松田峻一良福岡県医師会長が「多様な働き方の人々が、健康で豊かな生活をおくり、働く喜びやプライドを感じることができるように、事業所、産業医、労働局、労働基準協会連合会、地域医師会など関連団体が連携する」と、主催者あいさつをした。
平成24年度産業保健事業功労者表彰のあと、福岡産業保健推進センターの織田進所長を座長に、産業医科大学安全衛生マネジメント学の熊谷信二准教授が、印刷業における胆管癌発生を題材に講演、さらに福岡県医師会の山本英彦理事を座長に、保険学博士で健康社会学者の蝦名玲子グローバルヘルスコミュニケーションズ代表が、「厳しい職場環境の中で元気に働く方法=ストレスフルな現代社会を生きるための必須スキル」を演題に特別講演を行なった。
熊谷准教授の実態調査によると、あるオフセット構成印刷会社で1991年から2006年までに、1年以上勤務した従業員(男62人、女11人)のうち、2011年までに少なくとも男性6人が肝内もしくは肝外の胆管癌で亡くなっており、構成印刷部門内だけで発症していることが分かった。診断年齢は25〜45歳で、通常この年齢で胆管及びその周辺臓器に癌が発症して死亡するケースは年に1人か2人で、非常に稀だという。調査及び実験の結果、印刷器具の洗浄剤として用いられた有機溶剤に含まれる1,2―ジクロロプロパン及び、ジクロロメタンが原因物質として強く推測された。
熊谷氏は「事業主の責任の明確化と職業癌の労災申請の時効撤廃が必要」と述べたのち、「医療者が異常を発見した際には、労働基準監督署に通報する仕組みが必要」と提案した。
山本理事が「産業医はメンタルの問題を担当する機会が増えたが難しい問題だ」と述べたのを受けて蝦名代表は、紛争後の旧ユーゴスラビアでの調査経験を発表し、SOC(首尾一貫感覚=Senseof Coherence)という概念は、把握可能感、処理可能感、有意味感の三つで成り立っていると説明した。そして、それらを高めることによって職場のメンタル的な環境は改善されると語った。
県医師会の野田健一副会長が閉会の辞を述べ、満場の拍手で閉会した。
平成24年度産業保健事業功労者表彰を受けた医師は次の通り。
- 福岡県知事表彰
- 江頭啓介=福岡市医師会
- 火野坂徹=朝倉医師会
- 産業医学協議会長表彰(個人の部)
- 一安弘文=北九州市医師会
- 平野忠=同
- 橋口重明=同
- 天野修造=同
- 安藤俊行=同
- 古賀雅之=同
- 増田信生=福岡市医師会
- 藤見是=同
- 福嶋博文=筑紫医師会
- 田中昭=糸島医師会
- 井上隆=宗像医師会
- 谷口英之輔=飯塚医師会
- 猪口哲彰=久留米医師会
- 下津浦康裕=同
- 西宏文=大牟田医師会
- 大内和弘=八女筑後医師会
- 丸岡隆之=同
- 安永祐三=朝倉医師会
- 古川哲也=小郡三井医師会。
- 感謝状
- 原田悟=福岡県地域産業保健センター直方鞍手支部