おんが病院の強力でオオクマ電子が開発
手術室看護師の残業時間を半分に短縮
おんが病院の杉町圭蔵統括院長は11月6日、手術で使った薬や医療材料の自動読み取り装置を、オオクマ電子㈱(本社=熊本市)と協力して開発したと本紙に語った。3つの特許を取得し、別の特許も出願中で、世界で初めての機器となる。
杉町院長によると、開発が始まったのはおよそ10年前。オオクマ電子の先端技術に、おんが病院が現場の情報を提供して試作を重ね、完成に至ったという。
名称は「スペーサー」。注射薬の容器や医療材料を、保険の適用と不適用に分けて読み取る機能があるため、手作業による伝票記入の手間が省け、次の手術まで外科医が待たされる時間が短くなるほか、看護師の残業時間が大幅に減り、使った薬品や医療材料の請求漏れがほぼなくなる。それによって、ただちに補充できるため、在庫の圧縮や期限切れの管理にも寄与するという。
「ある病院は月に662件の手術をして260万円の請求漏れがあった。スペーサーを導入すれば、ゼロになる。米国の医療関係者が試作機を見に当院を訪れており、世界から注目されそう」と院長は期待する。
経営改善は患者のためになる
【杉町圭蔵院長略歴】
1963年:九州大学医学部卒
1985年:九州大学第二外科教授
1995年:九州大学医学部長
1997年:日本癌治療学会理事長
1998年:日本外科学会会長
2002年:九州中央病院院長
2010年:おんが・おかざき病院統括院長
杉町院長のコメントは次の通り。
手術で使った注射薬の容器や医療材料をスペーサーにまとめて投入するだけの簡単な作業が実現する。機械で選り分けて問屋に直接発注するので、補充も早くなる。特許のほかに知的所有権としても申請している。
今までは手術後に看護師が手作業で伝票に書き写すなどして、手間取ったうえに記帳ミスや書き忘れも多かった。薬の中には保険で請求できるものと、できないものがあり、仕分け作業はわずらわしい業務の1つだった。
たとえばある病院の肝臓移植手術では、1250個の薬剤・医療材料を使ったが、同じ薬でも5mlがあったり10mlがあったり、20mlがあったりして、同じような名前の薬もたくさんあるから、それを伝票に正確に転記しろと言う方が無理だ。間違えても仕方ないだろう。
ある大学病院では毎月膨大な額の請求漏れが発生したが、それを追跡するのは困難だというのが現状だ。肝癌手術で、看護師の手書き伝票は、40種58個の薬剤や材料を使用したことになっていたが、スペーサーで再確認したら、51種81個も使っていた。
上はスペーサーのメイン部分。縦軸の先端で容器を吸引して読取作業スペースに移動させ、センタリング(軸出し)してバーコードを読取ったあと、ベルトで破棄口まで運ぶ。汚れやめくれなどで読取れない場合は別の破棄口に投入されるが、判別率は99.5%を誇るという。(撮影=佐藤)
これらの問題はスペーサー導入で解決する。看護師もすぐに帰れるので残業時間が減り、次の手術がひかえている時も外科医を待たさずに済むから、回転も良くなる。
いま当院にあるのは試作機で、重さが570kgもあるため、来年2月には小型の量産タイプが完成する。(写真)
将来的には卓上型も視野に入れている。投入口が複数あるのは、患者ごとに予定を登録しておくためだ。
完成まで10年の歳月を要したのは、容器の形がいろいろ違うことや、臨床の場で使用データを多く取る必要があったから。基本的な形は2009年には完成していたが、現場の声を製品に反映させることは重要だ。
医療というものは、すべて患者のためにあるから、医療人は常に患者の立場に立ってものごとを考えるのが原点だ。必然的に、患者のためになることをやり、医療人のためを優先しない。患者は病気を持っており、それで精神的な異常を起こすこともあるから、我々医療人は、広い視野で、全人格的に患者をみなければならない。
スペーサーは、病院の経営に役立つ。これを使うことで請求漏れがなくなり、看護師たちの残業時間や労力が減る、患者の待ち時間が短縮される
など、いろんな面で経営にプラスになり、引いては患者のためになる。
幸いにもスペーサーは、厚労省の許可を必要とする医療機器ではなく、事務機という扱いだから、使い勝手もいいだろう。
開発費は、オオクマ電子と当院が、文字通り手弁当で開発してきたというのが実際で、量産体制はできておらず、今も手作りでやっている。情報が知れ渡って注文がたくさん来ても困るというのが本心だが、製品ができたので、補助金や基金が使えれば、それで普及につなげたい。いずれ一気に広がるだろう。
価格はおよそ2千万円くらいになるだろうとみているが、請求漏れが月に400万円くらいある病院なら半年で取り戻せることになる。波及効果として、早く帰れるので職員のやる気が増し、コスト意識に目覚めていろんなアイデアが出ているという報告がある。そういった間接的な利益も出せれば、さらに患者のためになる。
(聞き手=川本)