第23回日本小児整形外科学会 会長 岩本幸英 九州大学大学院医学研究院整形外科分野教授
【PROFILE】
1985年 九州大学大学院医学研究科博士課程修了。米国NIH(国立衛生研究所)留学、九州大学整形外科助教授などを経て、1996年より現職。
2009年 日本整形外科学会学術総会会長。アジア・太平洋整形外科学会日本代表。
2011年より日本整形外科学会理事長。
今年11月30日と12月1日、九州大学医学部百年講堂で開かれる「第23回小児整形外科学会」の大会長を九大医学部の岩本幸英教授が務める。学会への意気込みを中心に、教授自身のことについても語ってもらった。
―このたびの学会は少子化を念頭に置いて企画されたようですね。
私が整形外科医になったころは、先天性股関節脱臼の外来に多くの子供が来ていましたし、小児整形外科の手術もたくさんありました。かつては小児の三大疾患であった筋性斜頚と先天性股関節脱臼、先天性内反足、整形外科医なら誰もが経験した疾患でしたが、最近は発生数も発生率も減少し、一般の整形外科医にとってなじみの薄い疾患となっているようです。子供の患者が減って研修機会が少なくなれば、小児整形外科が、より専門性の高い領域にならざるをえません。
その一方で小児病院や大学病院で小児整形外科に触れた若手の整形外科医の中には、その魅力を理解して、志そうとする人も少なくありません。彼らに研鑽の機会を提供して次世代の小児整形外科医を育成し、施設も守ることは本学会の重要な役割です。そこでテーマを「ささえよう、こどもの未来と運動器」にし、超A級スペシャリスト養成のためのセミナーや実習を用意しました。国内外から6人の著名な講師を招き、そのうち4人は外国からの招待です。
でも患者は、まず身近な医者のところに行きますから、整形外科全体の小児に対する知識と技能を上げ、その医師たちの判断でスペシャリストに診せることにつなげます。全体のレベルの向上と、むつかしい傷病をきっちり治すスペシャリストも育てるという観点が必要になります。
―国民から小児整形外科が遠ざかっているような兆しがあるのでしょうか。
まだそうなってはいませんが、整形外科をジェネラル(=全般的)に診る人に小児整形外科への基本的な知識が欠けて、スペシャリストへの橋渡しができなければ大変なことになります。そこは私たちが気をつけておかなければなりません。そういった危惧への準備は必要です。
―スペシャリストになる人に共通点はありますか。
みんなやさしいですね。子供と接している間に身についたのと、もともとそんな適正を持った人がスペシャリストになっているような気がします。
―学会を準備する上で大切なことはなんでしょう。
今まで何度か学会長をやりましたが、その時代と未来を見てポリシーを立て、その柱に沿って組み立てていきます。幸いなことに九大の小児および関連病院、専門施設のつながりは出色です。
―参加人数や企画だけでなく、学会長の胸の内で、うまくいったなあと感じるのはどんな時ですか。
自分の考えたプログラムに成果があって、学会をきっかけに新しいディスカッションが始まって、先につながることでしょうか。ねらい通りに萌芽がいくつも出てくれば成功でしょうね。以前、意見の対立する2人の高名な演者にディスカッションしてもらったら、論点が非常にはっきりして、その分野が進歩したこともあります。
―医者になった理由は?
高校生のころは大学紛争で、不安定な時代でしたが、父親が胸部外科医で、夜中も呼び出されて大変だなと思いましたが、混沌とした時代に患者さんから純粋な感謝の言葉をもらう姿を見て、私も医療の道に進みました。
支えになったのは、目の前の患者さんに最善の治療をやるぞという気持ちでしょうか。これは世界中の医師に共通する心意気だと思います。なんとかしてほしいと願う患者と、それを助けようとする医師との関係には強烈なものがあります。
―医師として教授として、頑張る力の源は何でしょう。
私の場合、臨床と研究の奥深さに触れて寝食を忘れるほど没頭しました。小さいころからそんなタイプでした。釣りが趣味なんですが、磯釣りで24時間立ちっ放しでいられますよ。でもとにかく時間がなくて、今は行っていませんね。
―では、もしいま時間があれば、没頭するのは研究ですか、釣りですか。
いやあ、それは迷いますねえ(笑)。釣りには行きたいですけどね。日本整形外科学会の理事長もしていて、年齢的にもいろんなことを頼まれ、身動き取れないくらい忙しいです。仕事で外国にいても、最近はメールがありますから、日本にいるのと同じですよ。
―そんなに忙しい状況を続けられる理由は?
理由の8割は面白いからじゃないですか?(爆笑)。
この状態がなくなってハッピーかというと、全然ハッピーではないです。だから、釣りに行けないからアンハッピーかというと、そうでもないです。面白いと思ったり、やりがいを持ってやっているわけで、みんなそうだと思います。医療に携わる人は、いやいやでは続きませんよ。やりたくてしょうがない気持ちが技量を磨くんです。