病院で死ぬのはもったいない
新刊である。すでに読まれた方もいるだろう。「病院で死ぬということ」の著者、山崎章郎医師と、二ノ坂保喜医師(にのさかクリニック院長=福岡市早良区)の対談を、批評家の米沢慧氏が編んでいる。
サブタイトルに「いのちを受けとめる新しい町へ」、帯に「いま、ホスピスは町の中へ」とあるように、「患者を病院から解放する」という観点で書かれており、それによって病院のあるべき姿、これから進むべき道も見えてくる。
冒頭、スイスの精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの「生の終わりには、鎮痛剤よりブドウ酒、輸血より家のスープのほうが患者にははるかにうれしい」を引用し、末期患者を在宅や施設ホスピスに帰すことで、地域の結びつきを復活させる運動にまでつなげようと試みる。
失われている家族の介護力を、訪問看護や介護、デイサービス、ボランティアなどさまざまな職種で支え、診療所や病院が後方支援に立つことがチーム医療の可能性をさらに広げる。その実例が本書にはいくつも出てくる。
「在宅ホスピスの経験が家族のケアの力を引き出し、育て、その結果、地域のケアの力も高まっていく」と両氏は言う。そこを病院が理解してくれたら、やってほしいことはたくさんあると話す。
医療者でなくても読み進んでいくうちに、自分や家族の死の間際はどんな状況が望ましいか、そのためにどう生きればいいか、今の自分に何かできるかを考え、周囲の人たちに目を向けることになる本である。
医療関係者と市井に生きるすべての人に読んでほしい一冊。この書の完成度は、おそらく高い。
― 本紙編集部 ―