「見捨てない」ではなく「見守る」ために

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大分県厚生連鶴見病院 藤富豊 病院長

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Profile
1951- 福岡県生まれ
1977- 長崎 大学医学部卒業
1979 - 長崎大学 医学部第一外科
1982- 大分医科 大学第二外科
1988- 大分県厚生 連鶴見病院外科部長
2002- 独立型ホスピス大分ゆふみ病院院長
2004- 大分大学第二外科講師
2010- 大分県厚生連鶴見病院院長に就任、現在に至る

大分県厚生連鶴見病院のエントランスには「恕」という漢字が飾られている。「あの字、最初にどう見えましたか」と藤富豊病院長。記者が「一瞬、『怒』に見えました」と答えると、「あなたも僕の期待通りに反応してくれた一人だ」と笑いながら「『恕(おもいやり)』と読むんですよ」と一言。質問の意味、そして同病院が掲げる「がん治療高機能病院」について聞いた。

思いやりを中心に据えて

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あの「恕」は、なぜ病院に「怒」という字があるんだろうと来院者に思わせたいのですよ。もう一度見直して、「怒」ではなく「恕(思いやり)」なのかと認識して欲しい。女性が赤子に乳首を含ませるような心、そういう想いなんだよ、と。すべての職員がそんな心で患者に接し、見返りを求めないことを院是としている。思いやりというのは人と人の間の、お互いさまという想い。

患者は、病院で死ぬのはあたり前と思いながら、一方では助かりたいからこそ病院に来る。自分たちを客だと考え、病院も「患者様」と呼ぶ。しかし当院では、あくまでも「患者さん」。本来お互いさまなのだから、「さん」がふさわしい。人は互いに助け合い、助けられる存在。

最近は医療の患者満足度などというが、患者第一主義ではなく、患者を治し、看護し、お世話をし、少しでも患者が病気の苦痛から治るようにスタッフ全員が努力することが大切。ただ、それにもかかわらず、人は死ぬ。そのことが医療者と患者の相互不信感につながり、結果主義になってしまう。

30年間診ていた患者にある時がんが見つかった場合、僕らは精一杯やっていても不信へつながり、関係は壊れる。

人としては信頼感は続いていくものだろうし、そういうものが思いやりになるはず。お互いの心を大事にし、思い思われ、助け助けられていくのが人と人とのつながり。それが医療者と患者との関係につながり、同時に、医療者同士の関係へとつながる。

病院の中で、医療従事者全員がいつも仲良しなのかといえば、そうではないし、セクショナリズムからぶつかる時もある。自分たちがプロであるという意識があるのならば、何が問題なのか把握するべき。

そんなつまらない対立が生まないように職員を大事にしたい。職員を正当に評価すれば、プロ意識を持つようになり、やがては自分の仕事にやりがいを持ち、患者に自然にやさしくなれる。そして、自分たちが目指すものは何か、それは患者の苦痛を和らげ、治ってほしいという思いをみんなで共有するようになる。その中で、つまらない縄張り根性の争いではなく、患者のための議論としての喧嘩は、どんどんしてほしい。

僕自身は、喧嘩は腹を据えてやるものだと思う。自分が正しいと思ったらとことんやる。もし本気で喧嘩をするのなら、その人との喧嘩は一生に一度でしょう。お互いの言い分のどちらが正しいとかではなく、本気になったら、関係は戻らないから、僕はできる限り喧嘩は避けるけれど(笑)。

昔、ある教授と喧嘩した時は腹を据えてやりました。喧嘩は、上の者か、対等者を相手にしなきゃ意味がないし、縁切りでもいいと思ってやる。そのかわり、自分ができないことは言わない。

がん治療高機能への思い

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もともと農協の病院なので、検診センターには毎年4万人が来院する。今は、従来の機能に加え、がん検診が重要になっている。がんも見つかる可能性も高いので、病院の質を上げて、患者に選んでもらえる病院にしなければならない。大分大学の臨床研修病院であることを踏まえ、今まで以上に良い医師を集めて、それにふさわしいスタッフや高度機器を揃える。

高齢の患者には合併症がある人が多いので、低侵襲治療をメインとして、副作用の少ない治療を選択しなければならない。放射線治療もこの地域の中ではレベルが高く、IMRT認定施設にも選ばれているので、質の高い照射ができる。IVR―CT(血管造影検査)も入れて、頭部、腹部の治療ができるように力を入れていて、胸腔鏡、腹腔鏡をもちいた低侵襲治療と外来の化学療法を特徴としている。

しかし、すべての患者が治るわけではなく、どんなにがんばっても最後の時は来る。その時に、よそに送り出すのではなく、当院が引き受けるためにホームケア病棟(緩和ケア病棟)を新たに建設した。設計には看護師も積極的に参加してもらい、旧病棟50床のスペースを使って14床の病室を作った。

治療のあと、一般病棟、緩和ケア病棟、在宅を選択できる病院であること、すなわち、患者が治療と最後の選択をもできる病院、それが「がん治療高機能病院」だと考えている。医療従事者や患者が精一杯治療して、それにもかかわらず死を迎える時であっても、最後まで見守る病院でありたい。ホスピスの院長をしていた経験から言うと、ホスピス患者は見捨てられたという思いを持つ人が多い。だから「見捨てない」ではなく、「見守りたい」、僕はそう思う。


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