見直されたがん対策推進基本計画
―がんになっても安心して暮らせる社会の構築=患者の意見をさらに反映―
平成18年にがん対策基本法ができて5年が経過しました。
5年ごとの見直しにより、今年6月に、新たに平成24年度から28年度までの5年間を対象にした基本計画が打ち出されました。その特徴として、がん患者の意見がさらに大きく反映されています。
重点的に取り組む課題として
1.放射線療法、化学療法、手術療法の充実と、これらを専門的に行なう医療従事者の育成。
2.がんと診断された時からの緩和ケアの推進。
3.がん登録の推進(がんの種類や罹患数、治療内容、生存期間などのデータ収集と分析)。
4.働く世代や小児へのがん対策の充実
の4つがあります。
この基本計画に基づいて各県が独自の計画を作ることになります。
全体目標として
1がんによる死亡者数の減少、
2すべてのがん患者と家族の苦痛の軽減、療養生活の質の維持向上、
3がんになっても安心して暮らせる社会の構築があげられています。
国民の2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで死ぬ時代になって、国民の意識は変わってきつつあると思います。反面、早期発見をしなければ治療のむつかしい病気なのに、国民の側には、これだけ医学が進歩しているのだから、少しくらい進行していても助かるだろうという期待があるかも知れません。
たしかに放射線療法も抗がん剤も手術も、ずいぶん進歩しているのは事実です。しかし進行したがんを治すことは容易ではありませんし、治療成績も頭打ちになっています。だからこそ早期発見が大切になってきます。
2人に1人はがんになり、その2人に1人は治っていますが、国民全体としては25%しか助かっていないとも言えるわけです。正しい知識を浸透させる活動は今後も重要です。臓器別では、難治性がんといわれる肝・胆・膵がんや食道がんをいかに早く見つけるかが課題になります。
市民公開講座と肝胆膵がんドック
九州がんセンターでは死亡者数の減少という目標に対して、2つの企画を立てました。
1つは早期発見の啓発活動として一般市民向けに、9月15日午後2時からエルガーラ大ホールで「早期発見で守るあなたの命」と銘打った市民公開講座を開催し、頭頚部がん、肺がん、乳がん、大腸がん、前立腺がんについて、それぞれ当センターの専門医が講演します=右ポスター。昨年も同じ会場でがん予防の市民講座を行ない、再発乳がんのフォーラムも天神イムズで開催しています。
2つ目は難治性がんの対策として、「肝胆膵がんドック」を新たに始めました。
肝胆膵の悪性腫瘍は、早期のうちは自覚症状に乏しくて発見が遅れがちです。特に胆道がんと膵臓がんは、集団検診や通常の人間ドックでの早期発見は不可能です。胆道がんや膵臓がんと診断された時には、手術できないほど進行した状態が大半です。
当センターでは通常の腹部超音波検査と腹部造影CT検査に加え、磁気共鳴画像装置を使って膵管や胆管を描出し、血液検査を組み合わせることで肝胆膵がんの早期発見を目指します。
最近では印刷会社の従業員に胆管がんが相次いで見つかり、繊維や製造業など有機溶剤を使う他の業界にも広がるのではと危惧されています。
「肝胆膵がんドック」は偶然それと重なりましたが、1年前から準備を進めてきたもので、今年の5月からスタートしています。胃がんや大腸がんの検診はほかの病院にお任せし、がんセンターの使命として、難治性がんの早期発見に取り組もうとしているわけです。おそらく肝胆膵に特化したがんドックは国内初だと思います。(聞き手=川本)