想い7 新入社員とカウンセリング(2)

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世界的な経済不況の中で次の仕事を見つけるのは難しい。しかし新入社員の3人に1人は3年以内に辞める選択をする。

彼に会ったのは5年前の4月の下旬。私の担当していた企業研修の調整役をまかされていた。新入社員特有の初々しさとエネルギーがあり、ぎこちない名刺交換も好感を与えた。彼は有名大学を卒業し、イギリスに留学経験もあり、語学を活かせるこの大企業に入った。

上司の評は、仕事の遂行力・社会性・協調性・営業力などすべてが優秀で、幹部候補生として大きな期待があった。

研修会のたびに彼と雑談する仲になった。1年目は仕事に慣れるのに精一杯だったが、想像ほどきびしくなく、自分のことを考える余裕も出てきたと言った。

だが2年目に、表情から明るさが消え、雑談の中で彼の悩みが語られた。

会社との契約上、個人カウンセリングはできないため、部長了解を得て面談することになった。

通常、カウンセリング時には「主訴=一番困っていること」を聴き、関係を創りながら、相手の洞察を促し、自分で考え、決めていくことを援助する。彼とは雑談できる仲だったので、初回から主訴の話し合いができた。

 「会社を辞めて自分のやりたいことをしたい」

これが彼の主訴だった。「自信のある語学力を活かせる仕事がしたい。会社に不満はないが、語学力を活かすにはまだ時間がかかる。僕には時間がもったいない。若い今だからこそできる仕事をしたい」と言った。

青い鳥症候群を思い出した。童話「青い鳥」でチルチルとミチルの貧しい兄妹が、幸福をもたらす青い鳥を求めて旅する物語から、自分に合う仕事を求めて転職を繰り返す人のことを言う。でもそれは好景気の時の話で、最近は聞かない。幸せよりも現実をどう生きるかにエネルギーが必要だからであろう。

面接を続けると、彼の新しい仕事への思いの高まりがよく理解できた。「会社に不満も不安もないが、自分がやりたいことをしたい」と繰り返す。だが具体的イメージはなく、「語学力が活かせる仕事なら何でもいい」と考えているだけで、上司には「話していないし、話せない」と言った。

私の面談は企業との契約だ。企業は優秀な社員を残したいし、戦力にならなければ去ってほしいという隠されたニーズがある。彼は優秀だが辞めようと思っている。このケースの場合、本人に寄り添うと会社には損失となる。しかし彼には一生の転機である。

面談の内容を、上司は私に聞かなかった。中立性と守秘義務を大切にするカウンセリングを理解していたからである。

結局3年後、「会社を辞める決断をした」と話してくれた。上司にはこれから話すという。上司は引き留めたが、決心は変わらなかった。

彼は東京のベンチャー企業に転職した。カウンセリングの継続を頼まれたので2年間続けた。

 「新しい会社はハードワークだが、自分のやりたいことに少し近づけた感じがする。でも少し後悔もある」と話す表情には、出会ったころの活力が感じられた。

青い鳥はどこにいるのか。青い鳥を見つけた人はどれだけいるのか。今の日本に、自分の青い鳥を知る学生がどれほどいるのか。彼の面接を通して私自身の青い鳥を考えさせられるケースだった。 (臨床心理士)


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