九大大橋キャンパスで日本人間工学会が大会
6月9、10日の2日間、九州大学大橋キャンパスで「日本人間工学会第53回大会」(大会長=栃原裕九州大学芸術工学研究院人間工学教室教授)が開催された。
人間工学は、働きやすい職場や生活しやすい環境を実現し、安全で使いやすい道具や機械をつくることに役立つ実践的な科学技術のことで、大会のテーマは「生活の安全・安心を担う人間工学」。
開催2日目にはシンポジウム「医療安全に活かす人間工学的アプローチと今後への展望」が開かれ、60人が参加した。
発表者の1人、純真学園大学(福岡市南区)の能登裕子助教は「医療・看護の現場に活かす人間工学的アプローチの提案」について、医療と人間工学に共通するのは、対象となる人間とその他要因との最適なマッチングを考えること。看護における実際のリスク分析にはソフト・ハード・システム・ヒューマンという医療安全管理の4側面に複合的アプローチをとることが不可欠と話した。
群馬県立県民健康科学大学の五十嵐博講師は、「医療安全に活かす人間工学的アプローチの現状と今後の課題」として、医療従事者のミスを個々の誤りや失敗としてとらえるのではなく、ミスを起こす要因が職場環境に潜在していると理解することが重要と語った。
人間総合科学大学(埼玉県さいたま市)の佐藤久美子助教は「看護基礎教育における『医療人間工学』授業の実際」と題し、人間工学を看護基礎教育に位置づける試みとして、早い段階からリスク認知力を養うために、KYT(危険予知トレーニング)を取入れた授業を行なっていることを紹介した。
日本医療科学大学(埼玉県入間郡)の坂本重己教授は、「医療安全教育における人間工学的アプローチ」について、医療安全教育のために可視化教材を用いた手法を紹介。実際の放射線技師の日常業務を映像を教材化することで学生の関心を高め、臨床実習中の医療事故への不安を和らげる効果がみられたと述べた。
司会を務めた佐藤幸光純真学園大学保健医療学部教授は「医療教育・現場における人間工学は十分に根付いておらず、医療従事者は多重業務を抱え、現場で何が起きても不思議ではない環境で働いている。ヒューマンエラーを防ぎ、人間工学を今まで以上に発信するために、今日をキックオフの日にしたい」と語った。