自殺対策は久留米方式で

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「かかりつけ医うつ病ネットワーク」に効果を期待
久留米大学病院副病院長 内村直尚

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◆1982年久留米大学医学部卒
◆1986年久留米大学大学院医学研究科生理系専攻博士課程修了
◆1986年久留米大学精神神経科学教室助手
◆2007年久留米大学医学部神経精神医学講座教授
◆日本睡眠学会理事
◆日本精神経学会評議員・専門医
◆日本老年精神医学会専門医

平成10年から14年間、自殺者が3万人を超えています。これは交通事故の死者の6倍です。

中高年や働き盛りの男性に自殺者が多いのが特徴で、原因は失業、長時間労働、健康問題などさまざまですが、自殺を企てた人の75㌫に何らかの精神疾患があり、その半数をうつ病が占めます。

失業対策や多重債務対策も重要ですが、自殺の水際作戦として一番重要なのはうつ病対策です。

うつ症状を呈する患者が初診で受診するのは内科がほとんどで、専門である精神科や心療内科を受診するのは10㌫にも満たないのが現状です。

うつ病の初期の症状は身体症状なので、かかりつけ医が初診となるのは当然の流れで、特に日本では、精神科に対する偏見があり、敷居が高いこともあります。

かかりつけ医を受診したうつ病患者に、精神科や心療内科と連携することが自殺対策につながるでしょう。

自殺対策としていかに早くうつに気がつくか、それには「不眠」をキーワードにするのが良いのではないかと思います。うつは自覚しにくいが、不眠は自覚できるし、周囲の人も気づきやすいからです。

うつは精神疾患だから受診が恥ずかしくても、不眠は身体疾患だから相談も受診も容易です。さらに、一般の医師の側からも、うつ病の診断はしにくいが、不眠であれば安定剤や睡眠薬を処方して、2週間程度経過しても眠れなければ、うつを疑って専門家に紹介できます。

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これは不眠キャンペーンとして2007年から静岡県の富士市が行なって、効果が一定程度実証され、鳩山内閣の時に不眠キャンペーンポスターを内閣府が作成したわけです=右ポスター。

自殺対策強化月間だった3月に「ゲート・キーパー」という言葉が新聞に大きく出ました。これは周囲の人のうつや自殺のサインに気づいて、いかに医療機関や保健所につなぐかという運動で、日本の国民全員がゲートキーパーになれば、自殺者はゼロになるわけです。

人口が30万の久留米市の取り組みについて述べますと、医師会は4つあり、医療機関は425か所、精神科病院が14、精神科クリニックが15です。

久留米市の自殺対策事業にネットワーク作りがあり、その中に「かかりつけ医うつ病ネットワーク」と「ゲートキーパー連絡会議」があります。

平成22年度から、内科医などのかかりつけ医と精神科医を対象に、顔の見える信頼関係を作るための研修を行なっています。

さらに連携を強めるためにフローチャートを作り、専用の紹介状も作成し、うつの疑いのある患者をかかりつけ医が紹介しやすいよう工夫しています。また紹介する前に精神科にファックスして予約を取るシステムを作り、毎月どれくらい連携が取れたかを検証できるようにしました。

問題なのは、この連携システムで精神科を紹介しても、行かなかった患者の把握です。

紹介されたのに精神科に行ってない人たちについては、日本のどこでも把握できていません。私たちはそれを把握しようと考えています。精神科に行っていない人たちが自殺しているのではないかと思われるからです。

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そのために毎月、精神科がかかりつけ医から紹介のあった患者も保健所にファックスを送り、そしてかかりつけ医が精神科にファックスで予約した患者の受信の有無を把握することによって、受診していない人を明らかにする。これは日本初の試みです。

一昨年の12月から昨年の12月まで、1年間実施してみた結果、年間で442件、月平均40件の紹介がありました。女性が6割、男性が4割で、年代別に見ると20代から80代まで、すべての年代で紹介されています。そして54㌫が感情障害、34㌫が適応障害などのうつ状態でした。つまり、システムに乗れた人のおよそ9割がうつ状態で、この人たちは早期発見と早期治療ができているという点で、ある程度の検証ができたと言えます。

もう一つ大事なのは、紹介されたけれども精神科に来ていない人たちの把握です。先に述べた442人のうち、精神科に来なかったのはわずか2人でした。こんなに少ないはずはありません。

この原因は、一般医がきちんとファックスしていないか、精神科医が保健所に全数を報告していないかのいずれかです。

これを明らかにするために久留米4医師会は、精神科のある13病院と共同し、精神保健福祉士に推進員という立場になってもらい、420か所の医院すべてを割り当てて、毎月巡回しています。そうやって連携システムの周知をはかっています=上図参照。

また、かかりつけ医が精神科医をどう紹介すればいいか、良い例と悪い例をロールプレイのDVDに作成して配布しています。またドリームFMという久留米地区のラジオ番組で、1月1日から3月末まで毎日、朝と夕方に、私ともう一人の内科医のメッセージが40秒間流れています。そのようにして連携システムの啓発に努めています。

さらに精神保健福祉士が、内科と精神科の両方を訪ね、内科においては、うつ病を疑った患者が何人いたか、その中で紹介を拒否した人、受け入れた人の数、どこの病院を紹介したかなどを調べ、精神科と照らし合わせて、紹介されたのに来なかった人まで把握することを試みています。

現時点で検証できていることは、紹介を受けて精神科に来た人のおよそ9割はうつ状態であり、この患者たちには早期発見と早期治療が行なえています。

もっと自殺を減らすには、来ていないのはどんな人で、どれくらいいるのか。その人たちにどう対応すればいいのか。それを明らかにするのは日本で初めてのことで、よりいっそう連携の意義が深まります。4月以降は県全体でさらに進め、連携の精度を高めたいと思います。


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