想い5  非行少年のこころ 坂梨 圭

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最初に質問を1つ。

現在は戦後に比べ、殺人事件は増えているだろうか、減っているだろうか。そして少年事件は増えているだろうか減っているだろうか。

ここ2年の殺人事件は、戦後最低を記録し、少年事件も減っている。

マスコミが殺人事件や少年の猟奇的な事件を大きく取りあげるので、増えていると感じるだろうが、報道によって形成されるイメージと実相の乖離はシビアに見ていく必要がある。人間は印象で判断しがちだからである。

両親が子どもの非行に困って相談に来るケースは多いが、本人が来ることは希である。親が困っても、本人は困っていないからだ。

ある日両親が中2の男の子を連れて相談に来た。両親ともに地位のある職業に就いており、とても温厚で教育熱心だった。少年の方は小柄であいくるしい感じがした。

「よくきたね」と声をかけても無反応だった。私は少年に、ここでは何をしてもよく、本人の了解がない限り両親や先生に伝えることはないから、安心していいと話した。

彼はおもむろにテレビゲームを取り出して遊び始め、対戦ゲームには私も参加したが、彼は無言で指を動かしていた。

両親の話では、彼は非行グループに入り、夜遊びや万引きで先生によく注意をされるようになり、学力も落ちた。何度も話し合い、時には父親が叩いたりもしたが、なかなか良くならず、カウンセリングを受けることにした。少年はしぶしぶついてきたとのことだった。

翌週からは卓球がメインの遊びになった。運動神経がよくて、時には怒りを感じるようなスマッシュをこちらに打ち込んでくる。サンドバックも思いきり叩き、手は大丈夫かと心配になるほどだ。

そんなプレイが3か月続いたころ「ここに来てどう?」と聞いてみたら、「最初は面白くなかったけど、終わったらスカッとする」と小声の返事。

非行グループのことを聞いてみると、ぽつりと、時々パシリにされるのがイヤだと答えた。それなら抜けたら?と言ってみたら「パシリでも仲間がいる方がまし」と悲しそうな顔をした。「無人島の孤独より都会の中の孤独の方がつらい」という言葉を思い出し、「寂しいよね」と言うと、またサンドバックを叩きはじめたが、以前とは明らかに違い、いらいらをぶつけるのではなく、考えながら、一発一発、叩いていた。

「一人で居られるのも、能力の一つなんだよ」と彼の背中に語りかけた。

中3になり進路を考える時期になった。親は有名進学校をあきらめ、本人が希望するならどこでもという気持ちになっていた。「健全なあきらめ」である。

少年と私は高校進学について話しあった。現実が見え、明日を考え始めた時、自分の愚かさに気づいたようだった。今からでも間に合うのかと不安なようだった。「やろうと思った時がスタートだよ」。その一言で彼の迷いも少しはなくなったようだ。

非行少年でも心の中は不安や葛藤で一杯で、それをうまく対処できずに行動化することがたくさんある。明日が見え始めた時、エネルギーの方向性が変わり、彼の新しい人生の小さな一歩が始まる。イメージでとらえるのではなく、心の中に渦巻いているものを感じ取ることを教えられたケースだった。(臨床心理士)


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