想い(3)

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羅針盤をたよりに

12月31日と1月1日では気分が違う。たった1日なのに、新しい年明けはなぜか新しい気持ちになる。しかしそれは、普通に生活ができ、心がある程度健康な証拠である。

深い悩みを持つ人は、環境の違いだけでは、なかなか解消されない。今まで生きてきた人生を振り返ることを通して、自分の新たな生き方を模索していく必要がある。一時的に薬物療法を行っても、その人がもっている根源的な悩みは解消されにくい。その悩みに寄り添っていく仕事をしているのが臨床心理士である。

カウンセリングで「甘えを助長するのではないか」、「有効なアドバイスがもらえるわけではない」等々、世間の誤解がある。 カウンセリングといっても多くの学派、方法が存在する。同じ学派・方法論であっても、最終的にはセラピストの力量やクライアントとの相性の問題も存在する。何が有効なのか、よくわからない点があることも事実である。しかし、多くの人は「悩み」を持って生きている。家族や友人に話すことで、悩みが解消されたり、軽減されたりすることによって、生活に支障がないことがほとんどであろうが、関係が近いからこそ、話せない悩みで生きにくさを感じている人が多いことも事実である。

日本は13年連続して3万人以上の方が自死により亡くなっている。交通事故死は、ハード面の充実と交通安全教育などのソフト面の充実によって年々減少している。しかし、自死は減らない。私たち臨床心理士の大きな仕事は心を支えることだが、最終的には「生命を守る」ことである。そのために、臨床心理だけでは支えられない場合、医療機関や福祉機関と連携することもある。

「悩み」を持ってカウンセリングに来られた場合、最初に「今いちばん困っていること」(主訴)をていねいに聴いていく。それは、子どもの不登校であったり、会社での人間関係であったりする。しかし、その悩みをずっと聴いていくと、その人が持っている無意識に抑圧された心の奥深くにためられた複雑な感情が語られ始めることも多い。それは時として、「沈黙」のあとだったり、「関係がないかもしれないのですが...」という言葉の後から語られることがある。

複雑に絡みとられた心の奥底にあるものを、ひとつひとつ、自分の力でひもときながら、また、紡ぎなおしていく作業を見守ることが臨床心理士の仕事である。悩み大きい時代に、臨床心理士の役割は大きいと思うのであるが、悩める人と臨床心理士が出会えるシステムが構築されていないのが現状であろう。

11月初旬、北海道の美唄の山奥を調査のために探索していた。16時過ぎ、暗くなるのでレンタカーのある場所に戻ることにした。

目印のある大きな木から道は4方向に分かれていた。空は曇天だった。月も北極星も出ていない。最悪なことに方位磁針も地図も車の中。勘だけを頼りに歩き出した。しかし、また元の木の下に着く。2時間歩き回っただろうか。何度方角を変えても戻ってくる。人が悩むとは、こんなことではないかと思った。自分では進んでいるつもりなのに、元の場所に戻ってくる。行く道が分らない。文字通り途方に暮れる。そんなとき、月だったり、北極星だったり、方位磁石だったり、自分がどことにいるのかがわかる目印があると救われる。臨床心理士の仕事は、悩める人の羅針盤なのだろうと思う。

坂梨 圭(臨床心理士)


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