氏原寛氏の講演、参加者に深い感銘

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九大こころとそだちの相談室5周年記念講演会で

氏原寛氏の講演

NPO九州大学こころとそだちの相談室(略称こだち)の創立5周年記念特別講演会が、11月23日午後1時から九大医学部百年講堂で開かれ、臨床心理の草分けで前帝塚山学院大教授の氏原寛氏(82)が、医師や看護師、教師など、およそ300人の対人援助職に「専門職にとってのカウンセリングマイド」の題で話した=写真。

講演に先立ち、九大大学院人間環境学の田嶌誠一教授が、こだち創立の意義を「心の専門家である臨床心理士が力を結集したら何ができるか。専門性を発揮して新たな地域貢献できないかと考えた。来年は福岡県地域精神保健協議会からの委託で心の電話相談事業がスタートする。おそらく国内で例がない」と説明、また増田健太郎専務理事 (同大学院教授)が活動内容を具体的に説明した。

氏原氏は講演の冒頭、カウンセリングマインドについて「臨床心理士の力量を伸ばす大きな妨げになっている言葉ではないか」と問いかけた。「深い経験なしに言葉 だけで理解してしまうと、それは人間の善意みたいなものと思い込んでしまう。だが善意には限界があり、それだけではカウンセリングにならない」と語り、「カウンセリングがうまくいく決め手は、小児科医で精神分析家のウィニコットによれば、カウンセラーが、クライアントによって自分の心の中に引き起こされた、クライアントに対する悪意ないしは敵意。つまり善意ではなく、ネガティブ。それをいかにうまくクライアントに伝え返すかどうかで決まると言っている」として、「善意だけなんて言っていたら、クライアントに対して悪意や敵意を感じたその時点で、そのカウンセラーはすでにクライアントを受容しかねていることになる。でもその気持ちが実は当たり前で、それをクライアントに伝え返すのは至難の技だが、カウンセラーはやらねばならない」と話した。

また「カウンセラーは、クライアントに対する時と家族や友人に対する時とではまるきり態度が違う。我々は相手との関係によって自分のありようが変わる。そのことをわきまえなければならない。それぞれに別のマインドがある。そしてどの場合でも誠実なら『私は人間として誠実である』と言える」と言葉をすすめた。

「カウンセラーが文学や哲学に親しむと人間が耕され、間接的に仕事の役に立つ。だから教師がカウンセリングを勉強してもプラスになり、最大限の力を発揮するが、それは教育の専門家としての場合であり、カウンセラーになろうとすればアイデンティティーを見失うことになる」とも言い、「よき人間関係を考える時、我々はつい共通点ばかり強調し過ぎて、相違点があることをおろそかにする場合がある。これはカウンセラーが、自分の専門性を吟味することを怠るという結果を招く。日本のカウンセラーにはそこらを曖昧なままで、ひたすら『受容、共感、純粋さ』ばかり口にする。でもその『受容、共感、純粋さ』が、教師の持つそれ、親の持つそれとどう違うのか。そこの吟味が怠られて来た。それが、勉強しなくても善意さえあればいいという心理士たちを生んだ。臨床心理士たちの実力が伸びない一番大きな原因ではないかと思う。カウンセリングマインドさえあれば誰でもカウンセラーになれ、良い人間関係ができるという錯覚や誤解が生じた」とも述べた。(以下【記者の目】を参照)

講演のあと参加者から「思考的共感と感覚的共感について」などの質問があり、氏原氏はていねいに答えた。

【記者の目】

臨床心理の知識がない記者にも役に立つだろうとの直感があった。そしてそれは当たっていた。

臨床心理の世界を足元の土とすれば、そのずっと下を脈々と流れる地下水脈のようだった。その豊かな水脈で土壌は今も湿り、いろんな種を植えることができるのだ。

参加者は臨床心理を学ぶ学生であったり実践者だったりするのだが、そのどれでもない私は先入観(囚われ)なく、そのまま聞いた。知識として聞かなかった。後半になるにつれて言葉がどんどん捨てられて葉先のように細くなっていき、事例も身の回りのことだけになって、最後に氏の死生観が露のしずくのように、ぽとりと落ちた。

氏の威厳が影響しない私は素直に、本当にこの人はいい年の取り方をしていると思った。同時に、「今日の話は、対人援助職の頭越しに一般大衆の耳に入れた方がいい。迷いが解消し、心に悩みのある人のうち何㌫かは、たちまち治癒するに違いない」とも感じた。それは、頭越しの向こうにいる私にとても染み入ったからである。

講演の半ばで氏は言った。「私は今日、ここに来るのに82年かかった。物理的には皆さんと同じ場所にいても、実は違う所にいる」。この言葉の意味はとても深いが、はたしてどれだけの人に届いただろう。

今回の氏の講演が学習用のテキストではなく、庶民の手に届くような形で出版されるよう、主催者に強く望みたい。(川)


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