心理臨床の独自性

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「研究作法と研究理論が求められる」と鶴理事長

対談でこれからの心理療法を探った。(福岡県国際会議場9月3日)

対談でこれからの心理療法を探った。(福岡県国際会議場9月3日)

日本心理臨床学会(鶴光代理事長)は9月2日から三日間、福岡国際会議場など4会場で第30回秋季大会を開催した。同学会には2万4千人を超える会員がおり、大会は研究発表とワークショップに分け、別の日程で行なわれている。研究発表に重点を置いた今回の大会(実行委員長=野島一彦九大大学院教授)は、学会設立30年に当たるほか、東日本大震災での心理臨床のあり方や資格問題も伴なって、文字通り節目の大会となった。


これまでとこれから語るシンポジウム

シンポジウム「日本心理臨床学会30年と将来への展望」では、初代理事長の成瀬悟策氏(九大名誉教授)、6・8代理事長の鑪(たたら)幹八郎氏(京都文教大学長)、現理事長の鶴光代氏(跡見学園女子大教授)、岩壁茂氏(お茶の水女子大准教授)の4人が、学会の過去を振り返りながら、現状の到達点と課題、将来への展望を見いだそうとした。

独自性をいつもそばに

同シンポジウムは針塚進九大大学院教授の司会で進められ、日本の心理学界の第一人者でもある成瀬氏は、「学会の発足当時、臨床心理を知っている人はほとんどおらず、当座の施策として文科省認可の日本臨床心理士資格認定協会を設立した。今ではかなり臨床心理が社会的に認知されるようになり、まさに国家資格の時期到来となった」とし、「私個人としては国家資格の基準を、①隣接領域と比べてその分野に独自性があること。②その独自性が臨床の現場で役に立つこと。③専門的で高度な独自性であること。④その独自性はその分野の現状から発展する可能性があること、などの私見を持っていた」と当時を思い起こし、「国家資格の実現を目前にして、自分の分野の独自性を検討する機会としてとらえたらいいのではないか」と、独自性を強調した。

エビデンスの大切さ

鑪氏は学会が生まれて15年が経過したころの理事長。「近年の会員の増加は認定協会が指定制であることや、それが行政システムを作り上げてきたことに関係があるのでは」と語り、事務局を自前で持つに至った経過も話した。

また本大会の発表内容を、「事例についての考察が深まり、自分の経験を赤裸々に表現しながら、理論と照合していくという新しい形の事例研究ができ始めていると感じている」と語り、「アセスメントの技法研究や心理療法そのものの評価研究、これらが我々に欠けているのではないか。正しく評価してエビデンスをきちんと出していくことが、私たちの活動を、もっと社会につなげることになる」として、現行の研究資金援助にも、時代に見合った工夫が必要だろうと述べた。

困難を乗り越えてこそ

鶴理事長は「30年の間にいくつかの困難に直面した。それを乗り越えたことが学会発展の基礎になったと思う。研究推進や社会貢献の意味でも本学会の責任は大きいが、その質を高めていくのは簡単ではない」として、会員の研究発表の機会をもっと増やす方向で検討していると語った。さらに、「学会で発表した内容に、後日何かを少し加えて論文で発表するスタイルは誤解を招く。今後は研究作法と研究倫理がいっそう求められていく」と注意を促した。

東日本大震災との関わりでは「被災者救済のために心理臨床の立場でいろんな苦労があり、難しい面もあるが、そこから新しいものを私たちは生み出していかなければならないと考えている」と訴えた。

2つの統合

岩壁准教授はカナダの大学在学中に心理学の道に進んだという立場から、今後の日本の心理臨床の課題があるのかについて「2つの統合」の観点で次のように話した。
「1つは、最近話題のエビデンスと、日本の事例研究、臨床の治療をどのようにつなげてゆくのか。もう1つは心理臨床学と他領域、そして心理臨床学の内部にあるさまざまな壁を乗り越えるための統合」と切り出し、米国と日本の制度の違いも引き合いにして、「日本では臨床家が経験と内省に基づいて発展させる臨床の知、実践の知が強調されてきた。子どもや家族を対象にした、長期的で、成長を支えるようなセラピーが中心にあって、その中でセラピストがクライアントとの関わりから何を学び取るのかという、紙面上に残されない事例や対話も非常に重視されてきた」。

さらに「他方、心理介入の効果を厳密に調べる研究はあまり注目されてこなかった。この2つはどちらも重要な視点で、この2つに橋渡しをしていくことが、今後の知的基盤を作ることの役に立つし、他分野やクライアントに対しても、心理臨床とはどういうものなのかを示すことができる」とし、これまでのエビデンス実践の基になっている研究知見について、図表やグラフを示しながら解説した。

シンポジウムの会場から、研究資金援助のあり方や心理臨床という表現の根拠についてなど、質問がいくつかよせられ、4人のパネリストがそれぞれ、具体的に答えた。

【野島実行院長のコメント】
大きな区切りとなる第30回大会ということで、心理臨床学のこれまでの統括と今後に向けての展望について熱く語り合い、非常に有意義な大会となりました。
【記者の目】
心理臨床学会のシンポジウムで成瀬悟策先生の「体を動かすのは俺(心)であり、体の中の一部分に脳があって、動かそうという時に脳はその命令を受けて、体を動かすようになっている」との言葉に強くひかれ、手元のノートに書きとめた。
剣術家の立場で、解剖しても見つからない「丹田(たんでん)」という、へその下あたりにあるエネルギーの源と、筋肉や骨との関わりを結びつけようとした「表の体育/裏の体育」(甲野善紀著・PHP文庫)を思い起こしたからである。
さらに記者の立場とは別に、人は肉体が崩壊して死をむかえることになるが、では心はどこに着地するのだろう、という私個人の関心も働いた。
人は「心」という言葉をよく使う。「自分の心に問うてみよ」とは言うが「自分の脳に問うてみよ」とは言わない。「心のありよう」と言うけれども、「脳のありよう」とは言わない。それらからなんとなく、人の本当の住処は心の中ではないかと思い始めている。
成瀬先生は私に語りかけたわけではない。でもこちらにメッセージが発せられたようにも感じられ、壇上にむけてアンテナのチューニングを合わせた。

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