第47回 日本循環器病予防学会 日本循環器管理研究協議会総会【シンポジウム1】

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日本医療学会共催「心臓突然死の現状と予防」
「一般住民の連続剖検 例に置ける突然死の時代的推移:久山町研究」
九州大学大学院 医学研究院 環境医学分野 永田 雅治

九州大学大学院 医学研究院 環境医学分野 永田 雅治

初めに米国で報告が行われた一般住民を対象とした突然死の時代的推移の検討をみてみよう。エンドポイントは冠動脈疾患死あるいは心臓突然死と研究によって違いはあるが、いずれも時代と共に減少していると報告されている。しかしこれらの報告ではエンドポイントが心疾患に限定されており、それ以外の原因は検討されていない。ほとんどの報告で死亡診断書あるいは診療録を元に死因が決定されている。そのため突然死例では十分な検査が行われることが少なく、正確な死因が診断されているかどうかは検討の余地がある。

心疾患以外の死因も含め突然死の死因を正確に診断するには全例に剖検を行うことが重要だがこれまで一般住民の剖検例を用いた突然死の検討は行われていない。そこで今回は久山町連続剖検例の成績を元に検討を行った。

久山町は人口約8000人の比較的小さな町で福岡市に隣接する都市近郊型の地域に位置している。過去50年の人口推移を見ると1960年~2010年にかけて福岡市の人口が約2倍以上に増えているのに対し、久山町は町の96%が市街化調整区域に指定されている関係上福岡市と比べて変動が少なく疫学調査に適している。久山町と全国の40歳以上の年齢構成はほぼ一致しており、日本人の平均的なサンプル集団と考えられる。

研究においては61年、74年、88年、02年の循環器検診を受診した住民をそれぞれ第1~第4集団に設定し心血管病や生活習慣病の追跡調査を行っている。いずれの集団も受診率は当該年齢人口の約80%もしくはそれを超え、追跡率は99%以上と徹底されている。さらに不幸にして住民の方が亡くなられた場合、その多くを剖検し死因や臓器病名を調べていることが特徴として挙げられる。

62年から09年の死亡例(20以上内因死)は2464例で、死亡時の平均年齢は74歳、男性の割合は53%である。死因の割合は脳卒中が16%、心疾患が15%、大動脈瘤破裂・解離性大動脈瘤が2%、その他67%となった。全2464例の中で剖検を行ったのが1934例、死亡時の平均年齢が75歳、男性の割合が53%、死因もそれぞれ18%、14%、2%、66%といずれもほとんど偏りがみられない。よって死因をより正確に判断できている剖検例を元に突然死の検討を行った。

目的、日本人の一般住民における突然死とその死因の時代的推移を明らかにする。対象、久山町連続剖検1934例(剖検率78.5%)観察期間62~09年まで4期間に分けて行った。年齢階級別に見た突然死頻度は年齢が若いほど頻度が高く、特に20~39歳では死亡割合の33%を突然死が占めていた。加齢に伴い突然死の頻度は減少する傾向であった。また突然死頻度の時代的推移はほぼ横這いで、変化は見られなかった。

次に死因別に見た突然死頻度の時代的推移では第1期(62~73年)には脳卒中の割合が8.0%と最も多かったが時代と共に減少し第4期(98~09年)のデータでは2.1%へ約4分の1減少している。それに対し心疾患は時代と共に上昇しており、第1期では4.0%であったが第4期では9.7%となっている。同様に大動脈瘤の割合も0.2%~2.8%へと時代と共に有意に上昇していた。

このことから脳卒中の割合は減少しているのに対し、心疾患・動脈瘤による突然死は増加している為全体として突然死頻度は横這いになっていると考えられる。

次に突然死を病型別に見ると、脳卒中(33%)心疾患(49%)大動脈瘤破裂・解離性第動脈瘤(12%)といった心血管病が突然死の90%以上を占めている。脳卒中(33%)の内訳は、脳出血が21%と最も多く、次いでクモ膜下出血10%、脳梗塞2%となった。脳出血とクモ膜下出血で脳卒中のほとんどを占めている。

突然死の約半数を占める心疾患(49%)の内訳は、虚血性心疾患が29%と一番多く以下原因不明の急性心不全11%高血圧性心臓病5%、心臓弁膜症4%、心アミロイトーシス2%、拡張型心筋症1%、心室細動1%と続く。原因不明の急性心不全とは質的な心疾患が認められなかった例で、この中に致死性の不整脈などが含まれる。

症状出現から死亡までの時間と死因の検討。症状出現から1時間以内の死亡は85例あり、そのうち心疾患による死亡が67%と約3分の2を占め次いで大動脈瘤破裂・解離性第動脈瘤、脳卒中の順であった。1時間以内の突然死頻度の時代的推移では第1期2.5%から第3期(86~97年)9.2%へ増加し、第4期では7.6%へやや減少した。しかし観察期間を通してみると時代と共に増加傾向にある。第4期で減少した原因は治療が広く普及した結果と思われる。

次に死因別にみた1時間以内の突然死頻度の時代的推移ではいずれの時代も心疾患が最も多く1.6%~5.2%へと時代と共に有意に増加している。また大動脈瘤破裂・解離性第動脈瘤も0.2%~1.7%へと増加傾向を示していた。以上のことから1時間以内の突然死が増加したのは心疾患が増えたためである。

病型別にみた1時間以内の突然死では67%と全体の3分の2を占める心疾患の中でも虚血性心疾患が40%と最も多く次いで原因不明の急性心不全が16%以下高血圧性心臓病、心アミロイドーシス、心臓弁膜症と続く。

では突然死の死因のうち脳卒中が減少し、心疾患や大動脈瘤破裂・解離性大動脈瘤が増加している原因はどこにあるのだろうか。

第1集団から第4集団高血圧頻度の時代的推移から検討した。心疾患病の強力な危険因子である高血圧を血圧≧140/90mmHgまたは高圧薬服用としたときその頻度は男性・女性ともあきらかな時代的推移はみられなかった。しかし高圧薬服用者だけをみると第1集団で2%(男女とも)、第4集団では男性18%女性17%と男女共に有意に増加していた。高血圧治療は時代と共に普及していったと言える。高血圧者の血圧値の時代的推移をみると高圧薬服用者が増加した結果、男性では第一集団の血圧162/91が第4集団では148/89、女性ではそれぞれ163/88から149/86へと有意に減少している。つまり高血圧管理が時代と共に着実に普及していることが伺える。

また喫煙者の頻度を見ても男性では第1集団75%から第4集団47%、女性では第1集団17%から第4集団9%と時代と共に有意に低下している。以上より血圧管理の改善や喫煙者の減少により脳卒中による突然死が大幅に減少したと考えられる。

これに対して肥満、高コレステロール血症、耐糖能異常といった代謝異常の時代的推移をみると、男性における肥満の頻度は第1集団で7%第4集団では29%へと大幅に増加しており、同様に高コレステロール血症では3%から26%、耐糖能異常は12%から55%と時代と共に増加していることが分かる。また女性においてもほぼ同様の変化がみられた。このことから代謝性疾患の大幅な増加が心疾患あるいは大動脈瘤破裂・解離性第動脈瘤の増加に関与していると考えられる。

久山町では突然死の頻度は1960年代から2000年代にかけて大きな変化はなかった。時代とともに脳卒中による突然死頻度は減少したが、心疾患による突然死頻度は増加した。1時間以内の突然死頻度は増加し、その原因は心疾患の増加によるものであった。その背景に高血圧治療の普及と肥満、脂質異常症、耐糖能異常など代謝性疾患の増加があると考えられている。

「我が国に置ける心臓突然死とICD治療に関する地域格差と現状」
産業医科大学医学部 不整脈先端治療学 安部 治彦

産業医科大学医学部 不整脈先端治療学 安部 治彦

心臓突然死は「急性の症状が発症した後、1時間以内に突然意識喪失をきたす心臓に起因する内因死」と定義されている。日本の心臓突然死の原疾患について、東京都や佐久地域での剖検データを見ると、虚血性心臓病(主に心筋梗塞)、高血圧、弁膜症、特発性心筋症、心筋炎、心サルコイドーシス、原因不明の突然死(青壮年突然死症候群、乳幼児突然死症候群)、肺梗寒、大動脈瘤、肺炎、脳血管疾患など多彩である。

今回解析したデータはウツタインデータ(救急蘇生統計)を使用している。国内では平成17年消防庁で導入されている。ウツタインデータとは消防庁は調査結果をオンラインで集計・分析するためのシステムを運用開始している。救急救命士が行う救急救命処置の効果と検証、諸外国との比較が客観的データに基づき可能である。

国内における院外心肺停止患者数の実態(2005~08年)として患者数は年々徐々に増えており05年は102738名、08年は113827名である。その中で心原性の割合はほぼ横這いで54~56%。半数強の院外心肺停止の原因が心原性のものだと考えられる。年齢分布をみると、加齢に伴い増加傾向にあり、約71%は70歳以上の高齢者に発生していた。心原性・院外心配停止患者の年次推移では05年から徐々に増えており08年では63296名である。しかしこの数値には確定診断だけでなく除外診断(心原性である証拠はないが他の原因も見当たらないもの、老衰など)も含まれている。

確定診断だけの数値を見ると全体の約3割の数値になり、それが心臓突然死にあたると考えられるがデータ上の解析は不可能である。性別から比較してみると6割弱が男性となる。年齢分布では男性は比較的若い人に多く、女性は超高齢者80代以降になるとその差が逆転している。

わが国における心臓突然死の特徴を検討した。年度別の心臓突然死発症の月差変動では12~1月の冬場が最も多く、日内変動では早朝と夕方の2層性となっている。これは諸外国のデータとも一致していた。週内変動では月曜日と日曜日が多いという結果となった。

これを自殺者の年次推移と比較してみよう。08年度は32249名が自殺しているが、心臓突然死はその2倍となる63296名である。自殺者の約7割が男性となっている。年齢比較では20代~50代は自殺者が上回り、60~80代は心臓突然死のほうが多くなっている。また、月差変動では自殺は春と秋に多く、心臓突然死とは異なる結果となった。

心臓突然死の地域格差についても検討した。そのときの注意点として都道府県毎に人口構成年齢比較および性差(男女比)が異なるため、都道府県及び年度毎に人口動態統計による補正をそれぞれ行い、標準化死亡費として解析した。確定診断された心原性・院外心配停止患者数は心臓突然死数と概ね近似するとの前提で、以降「心臓突然死」と表現する。

05年度の心原性突然死の標準化死亡比では、愛知県が最も多く、最も少なかったのは香川県でその差は2.73倍であった。しかし、その原因は分かっていない。統計的には東日本の割合が高かった。心臓突然死の約7割は70歳以上の高齢者に発生していたが、3割を占める70歳以下の心臓突然死は社会的影響がより大きい。就労世代である20~60歳代の心臓突然死の特徴と発生の地域格差の検討では、年次推移はほぼ横這いで年間約17000人程度である。そのうちの約3割が確定診断となっている。

地域格差では北海道が最も多く、関東が最も低い。しかし地域格差の最大は1.7倍と小さく、年ごとの変動もなくおおよそ安定している。

最後にまとめると、国内において院外心肺停止患者数は年間約11万件発生しているが、確定診断された心原性(=心臓突然死)は少なくとも約17000人で、全体の約16%以上を占める。心臓突然死は冬場の日曜日から月曜日の午前中に多く発生し、男性に多い。都道府県格差は概ね縮小傾向を示し、08年では最大2倍程度までに縮小した。東日本で多く、西日本で少ない傾向にある。20~60歳代の心臓突然死の地域格差は少ない。

日本医療学会

日本医療学会は、「国民による国民のための良い医療をつくる学会」です。2009年から心臓突然死ゼロに向けて国民参加型の活動を開始しました。皆様に広くご参加・ご協力いただくための公開市民シンポジウムやインターネットシンポジウムなど様々な活動を行っています。

HP:http://www.jhcs.jp/


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