【東日本大震災関連講演】原子炉の安全性

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九州大学大学院工学研究院エネルギー重子工学部門 守田 幸路 講師

九州大学大学院工学研究院エネルギー重子工学部門 守田 幸路 講師

日本はエネルギーの輸入依存度が非常に高く、原子力を国産のエネルギーと見なす場合は一次エネルギーの82%、含まない場合は96%を輸入に頼っています。

主要国の一次エネルギーを見ると、日本の消費量は世界で5番目に多く、その構成は石油43%、天然ガス17%、石炭23%、原子力13%、水力4%となっています。二度の石油危機の経験から脱石油を目指し1970年頃から原子力、天然ガスの割合が少しずつ増えてきています。

今回問題となっている福島の原子力発電所も70年代に建設された原子炉です。しかし、依然私たちが使っているエネルギーの多くが石油に頼ったものであることにさほど変わりはありません。

一方電源別に発電電力量の実績を見てみると、原子力が一番多い約30%の割合を占め、基幹電力を担っています。その理由として、原子力は二酸化炭素の排出量が他のエネルギー比べて少なく燃料輸入も比較的容易であるため、地球温暖化対策と燃料供給安定性に優れているという点が挙げられます。

現在の日本の原子力の研究、開発及び利用の考え方は、平成17年に閣議決定された原子力政策大網が基本となります。この大網では、2030年以後も総発電電力量の30~40%程度以上を原子力発電が担うことを基本的考え方としています。核燃料サイクルについても使用済み燃料に含まれるプルトニウム、ウランの有効利用(再処理、プルサーマル)を着実に推進することが謳われています。

現在日本では54基の原子力発電所が運転中ですが、この数は世界第3位で、日本は文字通り原子力大国と言えます。

原子力発電の仕組みと安全確保

火力発電と原子力発電の違いですが、基本的に蒸気でタービンを回して発電するというシステムは変わりません。蒸気を発生させる方法に違いがあり、火力発電は石油・石炭・ガス等の化石燃料を燃やしてボイラーでお湯を沸かすのに対し、原子力はウランの核分裂に伴って発生する熱で水蒸気をつくります。

今回事故を起こした福島の原子力発電所は、沸騰水型軽水炉と呼ばれる原子炉です。軽水炉の基本構成は、核燃料を納めた原子炉圧力容器の外側に原子炉格納容器が、さらに外側には今回の事故で一部崩壊した原子炉建屋があります。運転中の圧力容器は非常に圧力が高く、沸騰水型軽水炉の場合、70気圧、温度は300℃程の高温高圧の環境になっていますが、原子炉の格納容器内は気圧、温度ともにさほど高くありません。原子炉圧力容器の中には冷却用の水が循環しています。

今回の事故では地震発生当時、制御棒が炉心の中に挿入されて原子炉が停止するという機能が正常に動作し自動停止しました。燃料集合体は、ウランを焼き固めたペレットがジルコニウム合金で作られたさや管の中に入ったものを束にしたものです。制御棒は上から見ると十字型の形になっており、これを原子炉の下から炉心に挿入することで原子炉の出力を制御するるという仕組みです。

安全確保のために放射能を閉じ込める5重の壁が構成されています。まず、核燃料である燃料ペレットはセラミックスでできており、容易には放射性物質が外に出ないように作られています。その外側に被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、原子炉建屋の順に合計5つの壁で放射能を閉じ込めています。

原子力発電所は安全確保のためにあらかじめ余裕のある安全設計をして異常の発生を防いでいます。万が一異常が発生しても自動的に原子炉を自動的に停止する装置が働いて異常の拡大や事故への進展を防止します。さらに事故が発生しても緊急炉心冷却装置で炉心を冷やし、原子炉格納容器で放射性物質を閉じ込める機能が働きます。このような多重防護の設計により原子力発電所の安全性を確保する仕組みになっています。

例えば、非常用炉心冷却装置は、炉心の冷却が上手くいかないような事故が起きたときは圧力容器の中に水を吹き込んで中を冷却します。さらに放射性物質を閉じ込める役割がある格納容器の中の温度や圧力が上がることによる破損を防ぐ為に格納容器にスプレー装置が設置してあり、水をかけて中の温度を冷やす役割があります。

しかし残念ながら今回の震災に伴って起こった原子力発電所の事故ではこの非常用炉心冷却装置が動作しなかったため、深刻な事態へと発展してしまうこととなりました。

福島第1原子力発電所の事故

地震発生時、第1原発の4~6機は定期検査で停止中でした。同1~3号機と第2原発の1~4号機は運転中でしたがいずれも地震により自動停止しました。

しかし、第1原発の1~3号機では、停止後も核燃料から出る崩壊熱を十分に冷却できない状態が発生し、さらに、炉心が部分的に溶けた「炉心損傷」の可能性があります。

また、冷却水の蒸発により格納容器内の圧力が上昇したため、ベント(排気)によって放射性物質を含む気体を大気中に放出せざるを得なくなってしまいました。さらに、炉心内では水が被覆管と化学反応を起こして水素が発生し、電源が使えないため水素の処理ができず、原子炉建屋(第1の1・3号機)で水素爆発が起こりました。

その他、使用済みの燃料貯蔵プールの水がなくなり、燃料棒が破損して放射性物質が外に漏れ出すのではという懸念も高まっています。

炉心の冷却については海水の注入が始まり崩壊熱のレベルも下がってきていますので比較的安定に推移しつつあるようです。今回の事故のレベルは国際原子力事象評価尺度に当てはめて考えると上から2~3番目(レベル5もしくは6)となる事故ではないかと推測されます。

では、地震に対してどのような備えをしているのかといいますと、我が国の原子力発電所は、マグニチュード6.5クラスの直下地震を想定した耐震指針に沿って対策されています。しかし、今回の震災は直下型ではありませんがマグニチュード9の地震となり想定を超えたものでした。

幸いなことに地震によって建物が大きく破損したという報告は今のところありませんので、耐震性については大きな問題がなかったのではないかと考えられます。津波についても指針に従って安全対策が施されていましたが、今回は想定を超える規模の津波が発生し、それによる被害が大きかったために事故の規模も大きくなってしまったと言えます。

原子炉で起こる事故がどれくらいの確立で起こるのか、74年に米国で発表されたラスムッセン報告を用いて説明します。ラスムッセン報告とは、一般的な社会生活で被る死亡リスクと米国の商用原子力発電所の死亡リスクを比較したものです。

考えられる事故の発生確率とその影響を評価し、総合的なリスクを評価した初めての例で、原子力発電所が与えるリスクは他の社会生活で被るリスクに比べて十分に小さいことが示されています。また、当時の安全設計で考慮されていた大規模な配管破断よりも、小さな配管損傷などの些細な故障・トラブルの連鎖で炉心損傷に至る可能性が高いことが指摘されました。その後、79年に米国で起こったスリーマイルアイランド原子力発電所の事故をきっかけに、この報告で用いられた確率的安全評価手法の重要性が認識されました。

今回の事故では、残念なことに、この炉心損傷を伴う事故が日本でも起きてしまいました。

原子力災害への対応

原子力防災とは、放射線の存在は五感では直接感じられないので、被ばくの程度を自ら判断することができません。一般的な被害とは異なり、自らの判断で対処する為には放射線の防御に関する知識や情報を必要とします。原子力災害は事業者がその予防対策、事故の通報と応急対策について基本的に重要な責務を負っています。

流れとしては、異常の発生後原子力事業者が直ちに国および地方自治体に通報し、通報を受けた国や自治体は体制を整えます。原子力緊急事態は、規定に基づき内閣総理大臣が宣言します。今回は冷却システムが正常に機能しなかった為、3月11日19時に宣言されました。緊急事態宣言の後は、内閣総理大臣が「原子力災害対策本部」を設置し、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)に原子力災害合同対策協議会が設置されます。

今回も屋内退避や非難の指示がでていますが、その基準を示した原子力防災指針では実効線量で50ミリシーベルトを境にそれを超える場合はコンクリートの屋内に退避または遠方への避難が指示されます。それ以下の場合は屋内に退避するという基準があります。

そのエリアを決めるのがEPZ(緊急時計画区域)です。防災対策を重点的に充実すべき地域のことで、指針では原子炉から8~10km圏内がそれにあたるのですが、今回の場合半径30km以内に屋内退避指示が、半径20km圏内に避難指示がでており、指針よりはるかに大きい範囲への指示となりました。

講演が行われた九州大学百年講堂

講演が行われた九州大学百年講堂

これは状況が好転しないことも考慮し、指針よりも厳しく避難、退避の範囲を決めたということです。また、事故に対応する緊急医療体制も整備されていて、緊急被爆医療チームの派遣や被爆の度合いに応じた初期被爆医療、二次被爆医療、三次被爆医療の機関及び方法が決められています。

放射線については一般的に認知度が低いため、デマに惑わされず適切に判断する為の科学情報が必要だと思います。私の所属する九州大学院工学研究院エネルギー量子工学部門ではホームページ(http://www.qpn.kyushu-u.ac.jp/)で一般の人にも分かりやすい情報を公開しておりますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。


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