3月11日に発生した東日本大震災の影響で福岡の医療界からも様々な支援の輪が広がっている。3月17~18日に行われた日本予防医学リスクマネジメント学会の中でプログラムを変更して行われた震災関連の講演と、福岡市医師会の活動・対応について紹介する。
福岡市医師会の支援活動
現地調査班派遣
3月16~18日福岡市医師会の江頭会長を初めとする4名が現地調査班として仙台市医師会や検視場となっている宮城県総合運動場を訪れた。帰福後緊急記者会見を行い状況を報告した。
仙台市医師会では現状の聞き取り及び食料品の差し入れを行った。仙台市医師会長によると、市内の医療機関は徐々に診療を再開しているものの、未だ津波の被害を受けた地区など一部の会員と連絡が取れていないという。
検視が行われている宮城県総合運動場グランディ21では14都市医師会の協力により各地から派遣されたチームが献身的に遺体の検視にあたっている。
第1班(検視班)派遣
現地調査班が帰福した18日には十四都市医師会連絡協議会の協定に基づき宮城県名取市増田体育館へ検視班第1班が出発した。検視班には福岡県医師会常任理事で警察医でもある大木實氏(大木整形・リハビリ医院院長)、勝田洋介成人病センター副院長ほか市医師会職員の計4名で編成。余震が続く中、現地の警察官・歯科医師らとともに2日間で88体の検視業務を行った。震災直後は宮城県内の被災地全域に横たわる無数の遺体が県内13カ所に設置された検視場に流れ込む様に運び込まれていたが、現在はいくつかの検視場は集約されつつあり、倒壊した家屋等から発見された遺体が順次搬送されている様な状況である。
検視にあたった大木・勝野医師が検死した遺体のほとんどは溺死と判断され、時間の経過の割には損傷は少なかった。しかし、濁流に着衣や所持品を奪われ身元が判明できない遺体も見られ、津波の凄まじさを物語っていた。
第2班(医療・救護班)派遣
3月24日~27日には第2班となる医療・救護班が仙台市立六郷中学校を訪れた。参加したのは福岡市医師会専務理事の入江尚会員、成人病センター部長北村裕次氏ほか職員2名の計4名。入江専務理事は、検視業務はほとんど終了し、約9000体の遺体が確認され、そのうち約3000体が身元不明の状態であることを報告した。今回は避難所となっている六郷中学校での固定診療及び巡回診療を行い、1日約20~30人を診察した。幸いにも震災による重傷者は少なく、風邪や慢性疾患の診療が中心となった。
現地の状況は深刻で、大きな津波の被害を受けた沿岸部などの地域は約50cm程の地盤沈下による水浸しの状態。その周囲は崩壊した建物などががれきの山となっており、復興にはしばらく時間がかかりそうな状態。被災地の中でも被害の大きさによって生活環境に雲泥の差があり、仙台市内の被害が少なかった避難所には開封されていない物資の段ボールが山のように積み上げられているのに対し、被害の大きかった地域や個別に避難している被災者の元にはガソリン不足の影響もあって物資が不足している。衛生面からみても深刻な状態だという。
このように地域によって必要な物資や支援が異なる状況にあるのだが、何が必要なのか、どんな支援が好ましいのかという情報を発信できる状態にないため、必要な場所に必要な物資が届くようまずは状況を的確に把握することが重要であると語った。
また、早急に生活環境を整える必要もある。医者や医療物資の不足は派遣によりある程度対応できるが、まだまだ余震が続く中で今の状況が長引くと精神面に負担がかかりPTSDなどの症状を引き起こす可能性も高いため心のケアやカウンセリングといった視点からの医療支援が必要となることも予想される。
福岡市医師会では今後も各方面の機関と連携を取りながら被災地に必要な支援を考え取り組んでいく方針だという。
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