第9回 日本予防医学リスクマネージメント学会学術集会【基調講演】

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院内感染・医療事故に対する札幌医科大学病院の取り組み
札幌医科大学 島本 和明 学長

札幌医科大学 島本 和明 学長

札幌医科大学付属病院の感染対策組織は、基本的に病院長の下で院内感染防止委員会(ICC)が管理し、実際には感染制御部ICTの管理下においてリングドクター・ナースや病院職員とともに管理している。

状況が起きると専門部会を形成され、大きい事故の場合は外部委員を入れて検討していく体制を作っている。院内には厚労省のガイドラインに沿った感染対策指針が制定されている。感染制御部の活動としては、これまでの経験を元に全職員を対象とした病院感染対策講習会を年に4~5回行っている。受講者には名札に貼るシールが配布される。さらに月に1回CLEAN HOSPITALという広報誌を発行しており、感染防止策や院内で分離された菌の薬剤感受性など分かりやすい内容の周知を心がけている。

取り組みの実態として2つの例を挙げて紹介する。まずノロウイルスは寒くなると全国的に発生しやすく、特に北海道はより寒さが厳しいため流行が早い傾向にある。全国的にも数年前大流行し、いくつもの病院で病棟閉鎖がおこりましたが当院でもノロウイルス集団感染による病棟閉鎖の経験がある。ノロウイルスは合併症を持っている方などを除き、普通にしていれば短期間で完治するため重症度の高いウイルスではないが、院内感染対策が難しい理由として以下の点が挙げられる。

  1. 感染力が極めて強い
  2. アルコール系の消毒薬の効果が不確実である
  3. 検査に保険適応がないため、確定診断が困難である
  4. 症状が消失しても長期糞便中にウイルスが排泄される

実際に19年度、当院で発生したノロウイルス感染症の概要は2月25日に一つの病棟で下痢や嘔吐の見られる者が発生した。外部委託による検査の結果、ノロウイルス症と判明した。3日後に当核病棟へ偏離室を設置した。3月12日に緊急ICCを開催し、感染拡大防止策の徹底について検討した。13日にはノロウイルス遺伝子検査を入院患者と職員に限り院内で開始し陽性者は陰性化確認の為一週間ごとに再検査をすることとなった。29日に陽性者全員の陰性化が確認され、有症状者もいなくなったため終息と判断した。

ノロウイルス感染症を疑い検査した患者は19名、医療従事者は12名だった。そのうち陽性者はそれぞれ5名と2名であった。他の病棟では胃腸炎症状がみられてもノロウイルス検査で陽性となったものはいなかった。実施したノロウイルス感染防止策は

  1. 個室隔離もしくは集団隔離を徹底
  2. 疑わしい患者が発生した際は手が頻繁に触れる場所(ドアノブ・手すり・水道レバー等)を0.1%次亜塩素酸ナトリウム(ブリーチ)希釈液で清拭
  3. 感染者が使用するトイレの限定。使用後にはナースコールをしてもらい看護師が便座やレバーを確実に消毒する
  4. 当該病棟にて感染防止策についての教育および適切な手洗い方法のトレーニング実施

といった対応を行った。

次にC型肝炎院内感染について、05年5月23日~6月7日入院患者で肝機能異常が確認され検査の結果C型肝炎であると判明し、6月14日にC型肝炎調査開始。15日に感染対策委員会を開き16日に医療問題調査委員会にて公表を決め患者・家族へ説明した。17日には記者会見にて報告するという1日刻みのスケジュールで対策した。7月21日には外部委員を中心とした院内感染調査専門部会を立ち上げた。中立性を確保し原因究明を開始した。翌年の3月14日に調査結果が公表した。

結論から言うと4人全員が完治している。C型肝炎の院内感染ということで記者会見の様子も含めメディアにも大きく取り上げられた。外部委員を中心とした調査の結果は、感染経路は特定できないが、病棟が一つであったことからも院内感染の可能性が高いという結果であった。公表する頃には4人の患者さんへはきちんと謝罪・保障をした上で、全員が完治したこと肝機能にその後影響がないことから円滑に対処することが出来た。この経験は確実に今後の感染防止策の徹底へとつながっていくだろう。

最後に、札幌における「治療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の取り組みについて成果と課題を紹介する。医療事故予防は医療安全推進部で行われている。インシデンスやアクシデントの報告、院院内講習会を行い予防に努めているが、医療事故が派生した場合調査委員会で徹底的に調査し結論を出していく。このとき患者・遺族と病院側との認識の相違が起こりやすい。感情的不信や事後説明が十分かどうかまたその態度には配慮しなければならない。

この事業は厚生労働省で行われているもので、診療行為に関連した死亡の原因を専門化が中立的な立場で調査し、診療上の問題点と死亡との因果関係を明らかにすると共に、同様の事例が再発しない為の対策を検討するものである。厚生労働省の補助事業として一般社団法人日本医療安全調査機構が実施している。

医療行為に関連した死亡について原因を究明し、適切な対応策を立てて、それを医療関係者に周知することによって医療の質と完全を高めていくと共に、評価結果をご遺族及び医療機関に提供することによって医療の透明性の確保を図ることが目的とされている。診療行為にかんれんした死亡について、死因究明と再発防止を中立な第三者機関において検討するのが適当と考えられる場合が対象となり、警察署に届けられた事例についても司法解剖とならなかった場合にはモデル事業の対象となる場合がある。現在10ヵ所で行われており北海道では札幌市をはじめとする10市の医療機関が対象となっている。

事業の流れはまず病院が患者遺族に事故の説明を行い、そこで患者側から納得できないなどの問題が発生した場合、病院がモデル事業の窓口担当者に調査を依頼する。同時に院内でも調査に取り組む。調査の受付けられると解剖、調査の実施、分析・評価する。

調査委員会の中には患者側の弁護士と病院側の弁護士が両方の立場から参加してもらっている。その結果を医療機関と患者遺族に報告し国民や関係機関に公表される。

これまでのモデル事業で調査分析された数を都市ごとに見てみると北海道は東京、大阪に次ぐ第3位で4年間で12例昨年1年間で4例となっている。北海道は事業が開始した1年後に参加していることを考えると順調に進んでいるが、まだまだ十分な数とは言えないだろう。しかし、モデル事業で調査し報告を受けたご家族には納得していただいており、その後の病院との話し合いも感情的にならず冷静に進めらることができ、不毛な争いや訴訟へつながることも避けられ有効に機能していると言えるだろう。

今後の課題としてこのモデル事業は24年までは機構として運営されることとなっているがその後の法制化などと対応をどうするかという点がある。

文部科学省では死亡時画像判断Aiによる教育支援プログラムが平成20年~22年に行われた。その結果Aiの有効性と限界・活用について、出血性病変の検出率が高い。外傷性死では致死的損傷を90%道程することができ、機器の性能や原因疾患により精度に差があることが報告された。解剖時の補助や非解剖時の死因究明として今後期待される。法医学視点からもAiの有用性・意義・限界をさらに推し進めて、解剖せずにAiでどこまでやれるのか研究をこれから進めていきたいと考えております。


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