第9回 日本予防医学リスクマネージメント学会学術集会【シンポジウム1】

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医療事故への対応 -職員保護の立場から-
社会保険相模野病院 内野 直樹 病院長

社会保険相模野病院 内野 直樹 病院長

まず、医療事故とは何か考えたときに被害者や加害者という言い方をされるが、私は加害者という言葉にあまり納得していない。真面目に働いていた職員がある日突然加害者とされ民事・刑事で追求を受けることが本当に正しいのだろうか。

もちろん医療事故で被害を受けた患者さんが最大の被害者となるが、当事者となり非難を受け、自己主張が許されない立場に追い込まれてしまう職員も第2の被害者と言えるのではないかと考える。

病院の対応としては同じ医療事故でも総力を挙げて守るべき職員とそうでない職員に分離される。それは事故の原因が手順の遅れや思い込み、手順の漏れ、繁忙、疲労、緊張など誰でも可能性のある事故であった場合と、実験的医療によるものや能力過信、人格欠損などいわゆるでたらめな事故であった場合である。実際に後者の割合は極めて少なく、事故が起きた場合には全力で職員保護業務にあたっている。

我々社会保険病院グループと一般病院の考え方についてアンケートを通して比較してみた。

まず、事故の原因はどこにあるのか、一般病院ではシステムにあるとの回答が45%と約半数を占め、社会保険病院ではシステムと個人の両方にあるという回答が59%となった。加害者と呼ばれることに対しては一般病院の50%がやむを得ない、社会保険病院の57%は納得できないとし、当事者となったとき病院に何を望むかという問いでは一般病院の50%が職員を守る宣言、社会保険病院は事実の公表であるという結果となった。これにより一般病院では職員よりも組織防衛を優先されるのではという考えが多くみられた。

さらに対応について病院が隠蔽すると思うかとの問いでは社会保険病院の89%がしないと回答したのに対し一般病院ではしないが55%、するかもしれないが27%となった。また、組織の圧力を拒否できるかという問いでは社会保険病院の91%が拒否できると回答したが、一般病院では拒否できる、出来ないかもしれないが共に42%となった。

ではなぜこのように差があるのかというと、社会保険グループが2年前から隠し事をせず事実を公表し、過誤があれば謝罪をするということに取り組んできた成果であると考える。

1年前に、実施していく際の障害は何か、職員にアンケートをとったところ40%が上司・管理者であると回答した。つまり我々がきちんとリーダーシップを発揮し統一方針を示すことで職員の「守ってもらえるのか」という不安を取り除くことができるのである。真実説明と職員保護は表裏一体で率先して職員保護を徹底することによって職員も真実を話し、病院も職員に必要以上の負担をかけない対応が可能となるのだ。

再び一般病院とのアンケート比較に戻るが、職員を守る負担は大きいかという問いに社会保険病院は52%が小さい、すなわち負担にはならないと回答した。これは一般病院の倍の割合である。

職員保護の規定はあるかという問いには一般病院が100%ないと回答したのに対し社会保険グループでは30%の病院があると回答した。まだまだ少ない数字ではあるが、こういう活動を始めたことにより職員の意識にも変化がみられ、明白な有害事象の説明が出来るかというアンケートに対し「全て話せる」が80%「ほぼ全て話せる」が20%であわせて100%になることに対し、一般病院ではまだ話せないが17%という結果となった。

また、隠蔽可能な有害事象についても社会保険グループでは80%が全て話す・ほぼ全てを占めている。20%まだ話せないという声があるのは残念なことだが、それでも一般病院ではまだ話せないが42%あるということを考えると少ない数字であることが分かる。

過誤があった場合の謝罪の実行も「謝罪」が「ほぼ全て」を含め100%となっている。これは明確に職員保護規定を文章化している結果であると言える。規定の内容は単純なもので、事故が起こった場合職員を絶対にやめさせないこと、精神的・経済的支援をおこなうことなどが記してある。

相模野病院の職員に、病院は事故があった場合あなたを守ってくれると思うかというアンケートを規定を作る前と後で比較すると、以前は守るという回答が67%だったのに対し規定が出来てからは87%に増加している。私は規定が出来る前から5年間、相模野病院の病院長である限り絶対に職員を守ると発言してきたが7割弱しか信用してもらえなかった。しかしそれを文章化しただけでその信頼度が約9割に増加し職員に安心して働ける環境を提供できた。

その結果、相模野病院では常勤看護師数が約70名増加、常勤医師も20名増加した。さらに、年間2,3件抱えていた訴訟がゼロとなった。トラブルは数件起きているが全て和解している。グループ全体で見ても訴訟などのトラブル数は激減し医賠責保険費用が1億円減となった。このことから安全対策の原理原則は常に真実を説明することにあると言える。たとえ隠蔽可能な事実があったとしてもきちんと説明し謝罪することで訴訟を減らすことができるという証明になるだろう。

周囲からの反発と疑念として、"社会保険病院は税金、年金が投入されて赤字だし事故の経験もないくせに"という声も聞こえてくる。しかし、経済的な面を見ても公的病院グループとしては補助金を唯一もらっていない団体だが真実を公表するようになってからは黒字を計上できるようになっている。平成22年度は累計黒字約98億円である。

シンポジウムでは医療事故の対応について様々な立場から講演、意見交換が行われた

シンポジウムでは医療事故の対応について様々な立場から講演、意見交換が行われた

さらに、私たちの病院は先月重大な医療事故を起こしている。内頚静脈穿刺を総頸動脈誤穿刺し、穿刺後8日間気が付かずカテ留置しており患者さんは亡くなられた。その後の対応として異状死を届出、警察に介入してもらい全ての情報を提出した。現在説明と謝罪を行い、ご遺族の方と交渉中である。私はこの事故が相模野病院の試金石であると考えている。ご遺族の方に納得していただけなくても、少なくとも私どもが隠し事をせずきちんと真実を説明し謝罪する気持ちを理解していただくことと、当事者となった数名の職員が救われるような、やめざるを得ない状況に追い込まれないように対応していく考えである。

事故が発生した場合、

  1. 患者さんの救命と処置
  2. 真実の説明
  3. 職員保護規定の実行

という3つを実施していく必要があり、今回の事故に関しても並行して進行中である。

最後にまとめになるが、現在社会保険病院の3分の1が保護規定を策定している。"真実の説明、過誤があれば謝罪"を実行するためには具体的な職員保護の保障が必要である。職員が安心して働く職場環境を作れば医療事故、トラブルは削除が可能となり、職員保護が徹底されれば人材確保、健全経営が可能となる。


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