福岡市医師会 成人病センター 信友 浩一 病院長
シリーズ"病院長に聞く"第3回目となる今回は福岡市医師会成人病センターの信友浩一病院長に話を伺った。
話題は基本理念である「患者さんのために」医師会立病院として何をするべきか、信友病院長が昨年の4月に就任してからの取り組みや地域完結型医療について、さらに病院長のプライベートまで多岐に渡った。
―― 医師会立病院としての役割を教えてください。
医師会立病院というのは医師会に所属する先生方・医師会立訪問看護ステーションのナースの方たちをバックアップする為の病院であります。福岡市民140万人から1人たりとも行き場のない人を作らないというのがわれわれの義務だと考えています。
先月からレスパイトケア入院という新たな試みを始めました。神経難病で自宅療養をしている患者さんは家族に付きっきりで看病してもらい、担当の医師や看護師に訪問診察してもらうことを「申し訳ない」と感じてしまうことがあります。
その結果生きていても楽しいと思えなくなってしまったり、家族にも疲れが見えてしまったりすることがあります。そういう患者さんを、病院で2週間を上限に預かり、その間に家族や医師・看護師にも休養を取ってもらうことで患者さんも家族・医師たちにもリラックスして精神的に元気になってもらうというのが狙いで、実際とても喜んでもらっています。
このような取り組みが今後の医師会立病院が担っていく役割であると思います。
―― 信友病院長が昨年の4月に就任されてからの取り組みについて教えてください。
「患者さんのために」というのが成人病センターの基本理念ですから、そういう病院であるためには経営体力を回復させなければ主体的な取り組みが出来ないと考えます。
まずは、患者さんの意見を直接聞くことから始めました。院内では毎週1回の院長回診を利用し、直接コミュニケーションをとっています。
その上で患者さんひとりひとりの目標を明確にする取り組みを行いました。病気が完治していなくても症状によって在宅での治療が可能であったり、逆に当院で最後を迎えることを希望していたり、症状によって他の病院での治療やトレーニングが有効であったりと様々な選択肢の中から患者さんの希望を聞き、患者さんの為となる治療法を選んでいくという理念に基づいた取り組みです。
また、就任して最初の2ヵ月で地域の病院や診療所約50ヵ所を訪問し、そこでも患者さんの話を直接聞いて回りました。私の顔を覚えてもらうのも目的でしたし、この病院の取り組みについて理解してもらうことも出来ました。
御用聞きは私の大事な仕事だと考えていますので、苦情も直接私が聞くようにしています。患者さんや紹介もとの先生からの苦情はこの病院になにが足りないのかを把握するために必要な要素ですし、直接聞くことで問題がこじれるのを防ぐ側面もあります。そうした取り組みの中で自然と患者さんに信頼してもらえる病院となり、地域の先生からの紹介も増える結果となりました。
このように経営体力を強化すると同時に期待してもらえる病院作りという方向性に一本化されつつあると実感しております。
方向性が明確になったことで病院のスタッフにも変化があったと感じます。自分のやるべきこと、何を勉強したら良いのかを意識して仕事に取り組んでくれていると思います。
実際にアンケートを取ってみると、90%のスタッフから回答があり、たくさんの意見が寄せられました。いい意見も悪い意見も期待してくれている証ですからこのアンケートは私の財産だと思っています。この意見を元に、スタッフ全員が一丸となり働きやすい病院を作っていくのがこれからの私の使命だと感じています。
病院のスタッフが自分から夢を語りたくなる環境づくりのために朝礼や終礼にも参加し、現場の意見を直接聞くという対応も始めました。それでも言い足りないことは院長室のドアをいつも開けておりますので、いつでもどんなことでも話して欲しいと思っています。
―― 地域医療連携の拠点病院としての役割も担っていると思いますが、現在の地域医療の現状について教えてください。
この病院に就任する前から地域完結型の医療を提言してきました。
医者の数が多いか少ないかではなく、医者同士が専門性の壁を越えて横に手を繋ぐかどうかだと考えます。各々の病院では診療科が限られ、医者の数も限りがあるかもしれませんが、地域にはたくさんの病院があり、その数だけ医者がいるわけですからお互いが協力し合うことで患者さんの為の医療を展開していけるはずです。その為にはまず医師同士が共に学び・共に遊びながらお互いを知り、連携していくことが重要であると思います。
―― 最後に先生の趣味を教えてください。
おしゃべりと山歩きです。外に出て行くことが好きですし、仕事・プライベートに限らず出会った様々な人と話をすることが私のライフワークであり一番の楽しみであります。
病院長プロフィール
福岡市医師会成人病センター 病院長 信友 浩一 氏Nobutomo Koichi
1971年九州大学医学部卒。九州大学医学部助手。78年医学博士。80年ハーバード大学大学院(公衆衛生学)卒業。82年国鉄中央保健管理所主任医長、 88年厚生省を経て96年九州大学大学院医学研究院医療システム学分野教授。01年から04年まで九州大学医学部附属病院副病院長兼任。10年4月に福岡市医師会成人病センター病院長就任。