第3回 福岡県医学会総会【特別講演】

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国家予算と医療費 ―現在と未来―
日本医師会 原中 勝征 会長

日本医師会 原中 勝征 会長

1.国民健康保険を堅持するための雇用環境の是正

この問題には雇用条件が非常に重要な鍵になってきます。2004年に労働派遣が解禁された結果、若い人たちの収入が減りました。09年の給与所得は年収200万円以下の所得者が1000万人を越えているというデータもあります。当然、株式の配当を多くする為には会社の医療保険を多くしなければなりません。したがって非正規職員を多くして月給を少なくするということが1つの目標で、それがすでに実行され01年以来非正規職員として働く若者が増えています。

また、雇用や生活の不安を背景に未婚率も大幅に上昇しています。正規職員の場合は大体30~34歳までに60%結婚しておりますが、非正規者職員の結婚率は30%です。悲しいことに一度結婚して子供を産んだ後、離婚したほうが経済的に楽だという女性も増えている状況です。

外来通院日数と完全失業率の割合を見てみますと、完全失業率が高く、通院日数は減少傾向にあります。このことから会社を休んだり遅れたりしてまで通院することが出来なくなり、重症な病状でない限り病院にはいかないという人が増えていることが分かります。

2.超高齢社会を見据えた社会保険全体の長期ビジョンの掲示

雇用形態の変化、未婚率の増加から問題になってくるのは出生率です。韓国・日本・イタリアの3カ国は比較的高い出生率があったのですが近年は大幅に減少しております。イタリアの場合はお金さえあれば結婚して子どもを産みたいという人が多いのに対し、日本と韓国はお金があっても結婚したくないという人が非常に多いのが現状です。このままだと日本の人口はますます少なくなってしまいます。

逆に平均寿命の推移ですが、日本の寿命はどんどん延伸し女性は世界一、男性は2位の値で世界一の長寿の国となりました。日本だけに限らずこれから先進国は高齢化社会へ向かっていくこととなります。本来は健康で長生きするということは人類の願いであり、大変喜ばしいことでございますが日本はそれを達成しているにも関わらず後期高齢者医療制度にはまだまだ課題もあり、残念なところです。日本の高齢者(65歳以上)の人口は2042年にピークを迎えます。

問題はどんどん人口が減っていくということです。55年までには約4000万人減ると推定されます。人口統計を知っている人からすればバブル時期の人口に戻るのだから問題ないという説もありますが、そうではありません。バブル時期には労働者の数が多かったのに対し、現在から将来へ向けては高齢者が増加し、出生率が低下していきますので、当然高齢者の比率と労働者の比率も変化します。

現在は高齢者1人を若者2.8人で支えていますが、50年には1.3人で支えていかなければならなくなります。これまでは職業に関係なく国民全体が年金をしっかり納めておりましたが、非正規職員の方は年金未納や健康保険未加入者が多いというのが現状です。

このままいけば日本の社会保障はあと10年で崩壊してしまうという説もありますが、それを実現させない為に日本医師会は出来るだけ早いうちに目先の課題に翻弄されない将来を見据えた長期ビジョンを早急に示すように一生懸命考えております。特に雇用法を出来るだけ少なくし、労働分配率を上げること、非正規職員を少なくすることを強く求めていきたいと思います。

3.医療費の引き上げと患者一部負担の引き下げ

現在の医療崩壊は長年続いた医療費の減額がひとつの原因であるということもあり医療費を増やすことを盛んに論じております。現実に11年度の社会保障関係費は28.7兆円(31.1%)、そのうちの医療費は8.3兆円(9.1%)とどちらもアップしております。これは政権が自民党から民主党へ変わって「社会保障費を毎年2200億円減らす」という法を凍結させ、さらに撤廃するという約束がなされた効果であると言えます。

しかし、25年の間に医療費の国庫負担は5.5%引き下げられています。これによって現在地方や家庭の負担が大きくなっております。08年の対GDP総医療費はOECD平均より低い8.1%で、31カ国中22位でした。民主党は昨年夏、総選挙の「政策集INDEX2009」で、対GDP総医療費を平均に引き上げると明記しております。地域医療崩壊を食い止め、医療を再生させる為に一刻も早く医療費の引き上げを実行してもらいたいと思っております。

さらに医療崩壊、医療現場の人材不足の原因となっております経済指標とのギャップですが、現在物価は横這いなのに対し、給与がどんどん低下し、診療報酬(全体)もそれ以上に大幅に下がっています。これらがこのような問題を生んだ大きな要因と言えます。

患者一部負担割合の引き下げについてですが、現在は義務教育就学後~69歳までは3割となっております。他の先進国では医療費が無料の国が多いことを考えるとやはり高すぎます。日本医師会の調査でも国民の62.8%、が「高くなりすぎ」と回答しております。我々は国民皆保険の理念である「いつでも」「どこでも」を堅持するために政府に対して少なくとも2割、最終的には1割に引き下げるように主張していきたいと考えております。

推定無保険者については社会問題に発展しております。失業したときに国民健康保険に加入していない人や国民保険の保険料滞納によって無保険になっている大人は全国で120~130万人と言われております。また、加入していても生活が苦しく保険料を支払えない世帯が増加しており、09年には5世帯に1世帯(20.8%)が保険料を滞納、そのうち本来の国民健康保険証をもたない世帯が7.0%に上っています。ただいま地方や国と早急に対処すべく話し合いを続けております。

さらに地域別の保険料負担をみると、どの地域でも負担が大きくなっているのが分かります。収入の20%~30%を超えている町もあります。このことを考えるとこれ以上保険料を引き上げることは出来ない状態であります。

そういう状況も含めまして、今回初めて日本医師会が一つの提案をいたしました。公的医療保険の全国一本化に向けた提案です。公平な負担で同じ医療を受けられるようにする為に4つの段階を踏みながら将来的には国保・共済組合・協会けんぽ・組合健保を全国一本化しようというものでございます。

4.医療費抑制政策の解消へ

地域医療崩壊は直接的には診療報酬の引き下げや構造改革、さかのぼれば医療費亡国論によって医療費が抑制され、崩壊が深刻化しました。しかし、財務省は10年度の診察報酬改定においても診察報酬の引き上げではなく、配分の見直しを主張し続けました。厚生労働省ではこれまで医療費を過大に見積もっては、医療費を抑制するということを繰り返してきました。この現状を打破するためにも引き続き強力に医療費増加の必要性を主張しなければなりません。

70歳以上の診察料は70歳未満の5倍となる75.8万円となっております。今後高齢化社会になっていくことを考えると、医療費が伸びていくことは容易に予測できます。日本医師会が平成22年度におこなったレセプト調査によると入院と入院外を合計した総点数の前年同期比は、いずれも今回の診療報酬改訂率を若干上回ったに過ぎません。これまで厚生労働省は年3%程度の自然増があるとの見解を示してきましたが、そういった自然増はほとんどみられないということが分かります。

一方病床数ですが、85年に医療法が改正され地域医療計画の下で病床規制が始まりました。08年の病床数は約20年前の水準にまで減少しているというのが現状です。06年からは入院医療にも制限ができ、発症後早期のリハビリテーションを重点評価するとの名目で算定日数の上限が導入されました。

これにより、まだリハビリが必要な患者さんでも決められた日数が過ぎてしまうと保険がきかずリハビリが受けられない人が増えるという状況を作ってしまいました。この問題についてはマスコミでも大きく取り上げられたことによって少しずつ緩和されつつあるようです。02年度の改定では再診料の月内逓減制も導入されました。03年6月1日に撤廃されましたが、今後も財源的な制約を理由に医療が制限される恐れがあります。

地域医療は病院と診療所の連携によって守られています。財務省は「開業医の年収は勤務医の1.7倍」としておりますが、これは基本的な考え方が間違っております。様々な経費や経営責任の重さを考えるとまったく異なりますし、実際の手取りの年収はそんなに変わらないということです。さらに、医療の現場で最優先課題となっているのは勤務医の過重労働の深刻化です。急性期への偏重や、病院と診療所の分断では、日本の医療全体の再生を図ることはできないと考えます。

5.市場原理主義の医療への参入阻止

01年の小泉政権発足後、医療分野に市場原理主義の考え方が流入しました。現政権下において混合診療の全面解禁、医療ツーリズム(国際医療交流)などの考え方が出てきております。混合診療が前面解禁ということになりますと、公的医療保険の給付範囲の縮小や信頼性の低下、患者負担の増加などの問題もあります。厚生労働大臣の定める「評価療養」と「選定療養」は保険診療との併用を有効に活用すれば新しい制度を作る必要もないと主張しております。

医療・介護への公費の投入についてです。経済産業省は、医療・介護施設と民間の関連サービスとの連携による市場拡大をめざしております。しかし、医療・介護は国民の安心・安全そのものでありますので、国家が責任を負うべきであり、民間にゆだねるべきではないと思います。日本医師会の分析では、医療・介護にそれぞれ1兆円を投入すれば、45万人の雇用が創出できますので医療と介護には公費を投入すべきであります。雇用誘発係数を見ても、介護と医療は高い水準であることが示されています。よって、医療・介護への財政出動は将来の経済成長につながる可能性が高いということが言えます。

最後になりますが、私たちが今取り組まなければならないのは高齢化社会・少子化時代という中で、すこしでもその環境を改善していくということです。安心して子どもが産める環境、女性が働きながら子育てできる環境、雇用法拡大による給与の定価を元に戻すこと。この3つをすぐに取り組んで欲しいということを主張していきたいと思います。


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