世代を超えてつながる小児生活習慣病 ―小児開業医に何が出来るか―
青木内科循環器科小児クリニック 青木 真智子 院長
日本の小児肥満に対する動きをまとめますと2007年小児メタボリックシンドロームが定義され、10年には厚生労働省・日本医師会などがバックアップして小児肥満ネットが立ちあげられました。学童期の肥満は約40%が思春期肥満に移行し、思春期肥満の約70~80%が成人肥満に移行すると言われております。一方、子宮内発育不全を伴った低出生体重児(胎児プログラミング仮説)はその後の生育環境があわないと成人期に生活習慣病を発症するという説もあります。
小児肥満の問題点は次のようなものが挙げられます。
- 成人の肥満・メタボリックシンドロームのかなりの部分が小児期の肥満・メタボリックシンドロームから生じる。
- 小児期から動脈硬化の初期病変が始まっている。成人で用いられる脈派や高感度シアルピンといった検査結果も小児期からの病変を示している。
- 生活習慣の確立は小児期から始まる。
- 小児期のメタボリックシンドローム・小児の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も増加している。
- 小児期に肥満があると 成人期に早死にする割合が高い
このように成人期の生活習慣病は乳児期・幼児期・小児期を通して大きく取り組まなければならない問題であると考えております。
小児肥満の診断は、文科省学校保健統計での指標とBMIの2つがありますが、小児医療の診断では前者で求められるのが一般的です。肥満度(%)=標準体重分の(実測値―標準体重)×100という計算式を用いて求められます。しかし、標準体重がひとりひとり違いますので、学校現場で全ての子どもたちの正しい肥満度が求められているとはかぎりません。文科省の肥満傾向は軽度肥満が20%~30%を示しておりますが、中等度肥満は30~50%、高度肥満は50%以上となっております。中等度肥満以上からは合併症が増えてきますので私は地域医療として介入が必要だと考えます。
平成21年度都道府県別肥満傾向児の出現率によると、福岡県は29位でほぼ全国平均でした。これは県内の学校の中でいくつかサンプリングいたしまして肥満度を直接計算した数値です。一方、福岡市の平成21年度文科省の統計数値は、5歳1.32、10歳1.78、13歳0.65、17歳0.32となります。これは学校によって肥満度を計算しているところと、学校医の指針だけで判断しているところもあります。ところが昨年、福岡市教育委員会がひとりひとり約11万人の子どもの肥満度を計算したところ5歳2.34、10歳7.55、13歳6.52、17歳7.62という数値になりました。
つまり、学校現場での肥満の診断は非常に低く、実際にひとりひとりの肥満度をチェックして判断しなければ中等度・高度肥満であっても気付かない可能性があるということです。
先ほどの福岡市教育委員会のデータをもとに実数を計算してみますと、介入が必要な小中学生の肥満児は福岡市約10万人の中に2800名(2.8%)ちなみに重症は600名(0.6%)という結果でした。
肥満の中でも病気であるか否かの判定が非常に重要になりますが、小児肥満の場合判定方法が2つあります。小児メタボリックシンドロームと小児肥満症という範疇です。小児メタボリックシンドロームは、大人のメタボリックシンドロームの診断基準に準じて作られました。小児肥満症は日本肥満学会が大人の肥満症という病気の単位を述べましたが、これも一つの病気の単位です。そして、小児メタボリックシンドロームに入っていない短機能障害や糖尿酸血症、高インスリン血症といった子ども特有の特徴がいわれております。
新潟大学菊池先生の肥満研究によると、単純性肥満の男女約1000人(肥満度30%以上)を対象に合併症の頻度を調べたところ脂肪肝・肝機能異常が2割~4割、高インスリン血症が4割~5割、高コレステロール血症が1割~2割、血清中脂肪が高い3割、その中でもメタボリック症候群が1割5分~2割しかございません。ですから私は小児肥満を診るとき、メタボリックシンドロームの定義だけでなく、小児肥満症の診断基準を用いて子どもたちを保護すべきだと考えます。
実際どのように小児肥満に取り組んだらよいのでしょうか。
学校現場では養護教諭・学校医の先生たちが肥満を正確に診断しておられるのか、かかりつけ医は小児肥満症という肥満の状況を疾患としてアプローチできているのか、この2つの問題があります。
かかりつけ医で取り組めないような困難なケースには2次専門機関が必要だと思いまして、福岡地区の小児科医会会長の新堂先生をはじめとする小児科医の先生方と協力して「あいれふ親子教室」を立ち上げました。指導内容は、小児科医の講義、運動療法士の実技、管理栄養士の食事指導などです。運動の内容は小さなステップ台を利用した踏み台運動やバランスボールなど家の中でも出来る運動を指導しております。
また、バランスのいい食事がとれているかどうかチェックできるウエルネスレストランも供えております。このような活動を通して肥満度の変化ですが、8家族中1家族ドロップアウトがありましたが、その他の家族では肥満度が低下しております。
かかりつけ医は小児肥満に対してどういう意識で対応しているのか。肥満の子どもが来院した時の対応についてアンケートをとりました。結果は積極的に取り組んでいるところがまだまだ少ないという結果でした。そこで、かかりつけ医が小児肥満を取り組むためのテキストを昨年11月に作成しました。このテキストは福岡地区小児科医のホームページにアップされる予定です。
現在自分の肥満がどういう合併症を持っているのかを知らずに過ごしている子どもたちがたくさんいます。何も介入しないより、子どもたちのことを一生懸命考えて経過を見ていれば、遥かに子どもたちの未来はいいものになっていくと信じております。
そのためにはつぎのことが必要だと考えます。
- 学校現場での肥満度の測定を重視し、小児メタボリックシンドローム・小児肥満症の診断基準に沿り、小児肥満の重症度を明確にすべきである。
- 学校医・かかりつけ医は外来で積極的に小児肥満、やせについて診断・治療すべきである。生活習慣病が世代を超えてつながることを考えよう。
- 福岡県でも生活習慣病検診が必要である。軽度の場合は、かかりつけ医が、また中等症・重症の場合は、積極的支援をおこなう施設が経過を診る必要がある。
肥満は世界で増加しており、2010年、オバマ夫妻は「Small changes can make a difference」と子どもの肥満重要性を主張しています。この言葉は私たちにも通じるものがあると思います。まずは私たちが行動を起こし、小児生活習慣病の子どもたちが自分の健康に目を向けて頑張っていけるようにこれからも開業医として取り組んでいきたいと思っております。