年頭所感
昨年4月より福岡市医師会長を務めております江頭でございます。年頭にあたり謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
さて、最近の我が国の政治情勢は、経済不況による雇用問題、尖閣諸島沖での中国漁船衝突やロシア大統領の北方領土訪問といった外交問題、地球温暖化といった環境問題、そして、以前から指摘されている少子高齢化、生産年齢人口減少に伴う医療・介護・年金といった社会保障問題等、様々な難題を抱えておりますが、昨年はこれら諸問題に対する政府の対応力が厳しく問われた一年だったように思います。
その一方で、政治に対して興味・関心を持たない国民、いわゆる政治的無関心という問題も生じております。現在の政治に失望感を抱く国民が増えたことや日本の教育制度に原因があるとも言われておりますが、政治を他人事のように捉える国民が急速に増えつつあるのは事実であります。そして、このことは残念ながら医師にも言えることです。
医療界では、政府が四半世紀にわたり医療費削減をすべてに優先させてきた財政再建至上主義の逆風を直に受けた結果、医療崩壊とも言われる重大な事態が生じております。この様な中でも、我々医療に携わる者は常に「命と健康を守る」という天職の原点に立ち地道な医療活動をもって、地域医療再生に向け努力していかなければなりません。この直面する様々な問題を乗り越えていくためには、まず全ての医師が団結し、医療のあるべき姿に向かって力を合わせることが必要ですが、ここ数年、医療の現状に失望し医師会活動に無関心な医師が増えつつあることを憂慮しています。
そもそも医療というのはサービス業ではなく、国民の安全保障の根幹の1つであることを医師は認識すべきであります。我々医師にとっては、患者の病気を治すだけではなく、間違った医療政策を治すのもまた使命であります。医療現場から、国民の視点に立って医療制度の具体的政策を提示し、その実現を図る努力が必要です。
過去、日本医師会は、政府が企図した制限医療を阻止したり、保険医総辞退という団結した行動の歴史があります。当時の医師にはプライド、政治力、気概がありました。これらにより医師会は圧力団体・利権団体の如くイメージを持たれたかもしれませんが、地域医療再生には今こそ医師ひとりひとりが危機感を持ち、協力していくことが求められています。
一方、我々の活動や提言が独りよがりとならないよう市民に理解を得ることも忘れてはなりません。これまで、政府やマスコミにより医療費の議論が医療機関の儲け話にすり替えられるといった傾向もあって、医師をはじめ医療従事者の頑張りにも拘わらず医療に対する患者の満足度は低く、不信感が醸成されるという悲しい現象がみられてきました。我々は、正しい情報を適切に発信し、市民と共により良き医療へ向けての施策を講じなければならないと強く感じているところです。
最後になりますが、今年の干支は「卯」です。兎にあやかり、我々福岡市医師会の活動が一人でも多くの医師や市民から理解を得られ、一日も早い医療再生の実現に向け、飛躍の年となるよう多くの方々のご協力をお願い申し上げますとともに、皆様方にとりましても幸多き年でありますよう心より祈念申し上げます。