-重粒子線治療は手術治療より有効か-
久留米大学医学部整形外科 平岡 弘二 講師
悪性骨軟部腫瘍とは骨や軟部組織(筋肉、脂肪や神経)に発生する肉腫と呼ばれる腫瘍のことであり、肺、消化管などに生じる一般的な「がん」とは性質が異なります。
肉腫に対する治療の基本は原発巣の十分な切除であり、肉腫の種類によっては化学療法を追加しますが、通常の放射線治療は一部の肉腫を除いて効果不良と考えられています。すなわち治療においては腫瘍の完全切除が最も重要なのですが、体の中にはその切除が十分にできない部位が存在します。
それは体の中心となる脊椎や骨盤といった重要臓器、血管や神経が近接している部位です。その理由は手術により機能障害(神経麻痺)や術中の大量出血を引き起こす危険性があるためです。
近年このような部位に発生した肉腫に対して重粒子線治療が有効ではないかと考えられています。
実際、重粒子医科学センター病院において重粒子線治療を行った症例数では1番多い疾患が前立腺がんであり、2番目に骨軟部肉腫に対して行われていることからもその有用性が推察されます。ただし重粒子線治療には適格条件があり、その条件に含まれない患者さんは治療ができない場合がありますので、詳しくは重粒子医科学センター病院、もしくは兵庫県立粒子線医療センターのホームページをご覧いただきたいと思います。
一方、上腕や大腿など四肢にできた肉腫に対しては重粒子線治療後の骨折リスクが高くなると考えられており推奨されていません。特に四肢発生の骨肉腫に関しては治療方法が確率されつつあり、現時点で重粒子線治療を選択する利益は少ないと考えられます。
それでは当院から2箇所の粒子線治療センターに紹介し治療していただいた患者さんの治療経過を紹介します。
治療依頼は7例行っており、骨盤と脊椎発生の肉腫各1例が条件不適合で施行できず、1例は費用の問題で中止となっています。そのため実際行われた粒子線治療は4例です。内訳は年齢が14歳~75歳(平均53.5歳)。男性1例、女性3例、発生部位は仙骨が3例、腸骨(臼蓋)が1例でした。
病理診断名は脊索腫3例、骨悪性線維性組織球腫1例で、線量は70.4GrE/16Frが3例、70.4GrE/32Frが1例でした。4例の治療成績は全員現在も無病生存されており、局所の腫瘍が大きくなった方はおられません。
しかし現在残っている症状として痛みが2例、排尿排便障害が2例に認められ、そのうち1例は人工肛門となり結果うつ病を併発してしまいました。また痛みと脚長差のための歩行障害が2例に認められました。このように治療前より認められた症状や治療によって同時に障害を受けた腫瘍の周辺組織から生じた症状はしばらく期間が経過した後にも残存する可能性があることを注意しておく必要があります。
重粒子医科学センター病院の治療成績をみてみると過去10年間で切除非適応骨・軟部肉腫404例(423病巣)のうち局所制御率が2年で89%、5年で74%、生存率が2年で80%、5年で62%という素晴らしい結果が報告されています。本来ならば手術をしなければ完治の可能性が低い腫瘍ですから手術を施行せず重粒子線によりこのようにコントロールできるということはかなり効果に期待ができる治療であると考えられます。
最後のまとめとなりますが、重粒子線治療は切除困難な悪性骨軟部腫瘍に対して局所コントロールを行い、治療成績を改善させる可能性のある治療です。
しかし腫瘍に取り込まれた組織や近接する臓器には晩期障害の発生する可能性があります。また重粒子線治療を受けるためには適格条件があり、また腫瘍の発生部位により重粒子線治療が望ましい部位と手術治療がすぐれている部位があるため、その治療方法の選択は主治医や専門医と相談の上決定することが必要となってきます。