久留米大学医学部先端癌治療研究センター臨床研究部門 野口 正典 教授
日本人の一番の死因であるがんをどのように治療するのかというのは重要な問題ですが、現在早期がんであれば外科的切除、重粒子線も含めた放射線治療で治すことができます。そういった標準治療が効かなくなった場合は抗がん剤治療(分子標的治療薬を含む)が広く行われております。
それ以外に4番目の治療法として「免疫療法」というのが注目されてきましたがこれまでは本当に治療法として成立するのか定かではなく、現実の治療としては行われておりませんでした。しかし近年、科学の進歩により基礎研究や臨床研究を重ね免疫療法の有用性が証明され今や現実のものとなりつつあります。
今年の5月にはアメリカで世界初となる前立腺がんに対する免疫療法がFDAで承認されました。現在世界各国で免疫療法をいかに開発していくか競争が行われております。日本でも世界に向かって実際に治療に使われるがんワクチンの開発が進んでおり、本日ご紹介するテーラーメイドがんワクチン療法もそのひとつです。
簡単にがん免疫療法を挙げると大きく分けて抗原非特異的免疫療法いわゆる免疫力を上げる効果があるものと、抗原特異的免疫療法のふたつがあります。がんをピンポイントにやつける効果があるもので、ペプチドワクチンは後者に含まれます。
ペプチドワクチンについて詳しく説明すると、免疫細胞はがん細胞の表面にあるペプチドというタンパク質の断片を目印に攻撃を仕掛けます。このがんの目印となるペプチドを解析し人工的に作り出したのがペプチドワクチンです。ペプチドの姿をした全く似て非なるもので、これが体内に大量に入ると免疫細胞はそれに反応し活性化を図りその数を増やしていきます。そしてペプチドワクチンには目もくれず、がん表面のペプチドめがけて一斉に攻撃を仕掛けがん細胞だけを破壊するといった仕組みです。
ペプチドには様々な種類があり、一種類だけ投与してもなかなか成果はみられません。
一人ひとりの免疫機能を調べて最適なワクチンを選出し投与することで効果がよりあがってきます。そこで久留米大学で行っているテーラーメイドワクチン療法では患者さんの血液を採取し約31種類の候補ペプチドの中から抗体反応と細胞免疫反応が高いものを選出して投与するという治療法を行っています。この治療法は入院の必要がありませんので外来で診療を受けることができます。
副作用もほとんどなく1週間~2週間に1回程度皮下へ投与することで効果が得られますので患者さんにとっても負担が少なく治療が受けられると考えております。
厚生労働省はこの技術を高度医療に認定し、抗がん剤不適応の再熱進行前立腺がんにおける治療に対して保険の一部併用を認可しました。
その他のがんに対しては現在も開発を行っており、特に進行性の肺がん、膀胱がん、肝臓がんについては久留米リサーチ・パーク(文部科学省地域イノベーションクラスタープログラム中各機関)と協力して全国の基幹病院との共同臨床試験を行っております。
第4のがん治療法として注目を集めているがんペプチドワクチン療法。久留米大学では個々の患者さんに適したテーラーメイドワクチンを開発しており、実用化されれば全てのがんへの治療法として選択肢が広がるとともに副作用が少ない画期的治療となることが期待されています。