「ハイパーサーミアの抗腫瘍効果のメカニズムと臨床応用」群馬大学 桑野 博行 教授
現在、がんの治療においてハイパーサーミアは多岐にわたって応用されている。
ハイパーサーミアの利点は、それ自体の直接的な効果に加え、局所における反応の増強、特に血流の増加によるドラッグデリバリが増強される点にある。
われわれは、これまで研究室や試験管内の研究で、ハイパーサーミアの抗腫瘍作用を立証してきた。
そして、局所への抗腫瘍効果の増強を狙って、ハイパーサーミアを化学療法や放射線治療と組み合わせて安全かつ効果的に進行したがんの治療に適用してきた。
今回は、私の専門である消化管についてデータを示しながら悪性腫瘍治療におけるハイパーサーミアについて述べていきたい。
1.食道がん治療について
高度進行症例がハイパーサーミアの治療対象となるが、放射線化学療法と併用したところ術前治療としての有効性が示された。
食道がん61例のうち48例に治療が完遂出来た。
2年生存率は16.7%、平均生存期間は10ヶ月であった。
なかなか腫瘍がなくなるというところまではいかないが、完治しなくても腫瘍の縮小、ダウンステージングが得られればかなりの予後が期待できる。また、外来で治療できるため放射線、化学療法などの他の治療法と遜色ないといっても良いだろう。
副作用として間質性肺炎などがみられた。
2.胃がん治療について
われわれはまた、術中に腹膜にまでは播種がみられた進行した胃がんに対し、胃切除術後に化学療法との併用(PIHC)を試みた。その結果、かなりの効果が期待できることがわかった。
この研究で治療に使用したのはthermotronRF-8。その3年生存率はPIHCで36%、コントロール群で0%だった。
この治療により予後不良な胃癌腹膜播種例で、予後が改善され、生存例も出てきている。
3.直腸がんへの術前治療について
直腸がんの治療において「肛門を温存できるか」というのが大きなテーマである。
そこでT2からT4の直腸がん患者の術前治療として骨盤全体にchrono-chemo-radiationでの放射線治療(週1回1時間)とハイパーサーミアを併用した。その結果、高い抗腫瘍効果が得られた。
進行した直腸の悪性腫瘍に対しchrono-chemo-radiationでの放射線治療と局所へのハイパーサーミア治療と内肛門括約筋切開術(ISR)を併用。
その結果、腫瘍の縮小が得られ、肛門や肛門内部の括約筋の温存が可能になった患者が増加した。 我々の直腸がん手術のコンセプトは
- a便のソイリング(いわゆる便もれ)がないこと
- bできるだけ固形物とガスを感知する機能をもつ直腸粘膜を残すこと
- c括約筋を内部に充てんさせることである。
肛門を温存できれば、患者のQOLが飛躍的に向上する。
さいごに
これまで悪性腫瘍の治療におけるハイパーサーミア療法の実験的な研究の成果、臨床応用での有効性、利点そして限界についての見解を述べてきたが消化器がん治療におけるハイパーサーミアの抗腫瘍効果の理解の一助となれば幸いである。