岩見隆夫著 総理の娘―知られざる権力者の素顔―
(2010年2月、原書房刊、四六判312P、1,995円)
この号が出る頃には、民主党政権3人目の内閣総理大臣が誕生しているかもしれない。
今回紹介する『総理の娘―知られざる権力者の素顔―』の著者は、毎日新聞客員編集委員で政治評論家の岩見隆夫。佐藤政権以来、約四十年にわたって政界を取材し続けてきた。本書は、その豊富な取材経験から生みだされた多くの著作の中で、一風変わった肌合いを持つ。
鳩山一郎から小渕恵三まで11人の総理の知られざる一面を「娘」というフィルターを通して描いている。新聞やテレビではうかがい知れない権力者の素顔が「娘」の証言で生き生きと浮かび上がる。
一国の宰相とはいえ、家庭にあっては夫であり、父である。娘のボーイフレンドの存在にやきもきし、就職先を案じる。どこにでもある家族の風景だ。父と娘のやりとりは、ほほえましく、時に切ない。
本書は、歴代宰相の人物像を紹介する好著であると同時に「日本の家族」の物語でもある。政治家を取りあげた本の中では珍しく温かな余韻を残す。娘をお持ちの読者は、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。
(安東伸子)