九州医事新報社 - 地域医療・医療経営専門新聞社

連載:検証コロナ「あの時」《第4回》 埼玉医科大学病院 松尾幸治 教授/松岡孝裕 講師

連載:検証コロナ「あの時」《第4回》 埼玉医科大学病院  松尾幸治 教授/松岡孝裕 講師

まず把握すべきは何にストレスを抱えているか
4月「COVID-19職員メンタルヘルスこころのケアチーム」設立

 中国・武漢で原因不明の肺炎が確認されてから1年。新型コロナウイルス感染症(COVID─19)は国内にも広がり、感染急増と一時的な収束を繰り返してきた。終息の見通しがなかなかつかない中、医療者の心身の疲労も蓄積されている。

 埼玉医科大学病院では、4月下旬、「COVID─19職員メンタルヘルスこころのケアチーム」を設立した。具体的な取り組みを聞いた。

精神的疲労を懸念 2週間でチーム設立

 「職員の心の健康を維持しつつ、新型コロナという未曾有(みぞう)の大きな問題にどう立ち向かっていくか。使命感を持って頑張っている職員を、サポートしてほしい」。神経精神科診療部長の松尾幸治教授に、当時の病院長から話があったのは4月初旬。1人目の患者受け入れから1カ月ほどたった頃だった。

 コロナ重症患者を受け入れている埼玉医科大学病院。専用病棟が設置され、他の病棟などから集まった医師や看護師らが対応に当たる。治療で専門性の高い知識・技能が求められる一方、ケアにおいても、患者と家族のふれあいの制限などこころの負担の大きい業務も生じ、職員の身体的・精神的疲弊を懸念する声が、複数の部門から病院長の元に届いていた。

 「当時は、今以上にこの感染症についてわかっていないことが多かった。慣れない感染対策などもあり、相当なストレスがあることは想像に難くなく、とにかくスピードと継続性を重視して、準備を始めました」と松尾教授は語る。

 神経精神科外来医長の松岡孝裕講師をリーダーに、複数の精神科医のほか、精神科病棟の看護師長や公認心理師、精神保健福祉士など日常的に精神科診療に従事している多職種スタッフが集結。具体的な内容が固まり、チームとして動き始めたのは、病院長から話があってからわずか2週間後だった。

「相談してもいい」雰囲気醸成に

 チームメンバーのエネルギーをロスなく推進力に変える狙いもあり、活動の柱を「啓発」「スクリーニング」「メンタルヘルス相談」の三つに集約。松岡講師を中心に「仕組み化」してきた。

 まず着手した「啓発」では、「こころのケアチーム通信」を病院全職員にメールで送信。日本赤十字社「新型コロナウイルス感染症に対応する職員のためのサポートガイド」を元にした情報提供と、職員に対して「わたしたち病院は皆さんのことをいつも気にかけています」というメッセージを送り続けることを狙いに、2カ月に1度ほどの頻度で配信している。

 「スクリーニング」にも、工夫を凝らした。「一番シンプルなのは『いつでも相談してください』と連絡先を示すこと。でも、自分から手を挙げて相談する人は少ないこと、相談できない人に大きな悩みがある傾向もわかっていました」と松尾教授。相談のハードルを下げ、気軽に相談していいのだと思える雰囲気を醸成することに、神経を注いだ。

 松岡講師は「医療職についている方は献身的な方が多く、弱音をこぼすことに抵抗感がある方の割合も高い。そこで、アンケートの活用を考えました」と語る。

 6月には、「新型コロナウィルス感染症 関わり方アンケート」を実施。コロナ専用病棟に配置されたのか、専用病棟のスタッフではないもののたびたび呼ばれてコロナ患者の気管挿管をしたのか、など複数の選択肢で、関わり方を質問し、同時に、「機会があれば誰かに相談したいと思うか」「相談するならどんな職種が良いか」も尋ねた。

 さらに「相談したい」を選んだ職員には希望した職種のチームメンバーからアプローチ。ヒアリングを経て、必要性に応じて、治療などに移行する流れになっている。

複数の窓口、ルートを用意する

 「メンタルヘルス相談」につなげるためのルートを複数用意したのも、今回の特徴だ。医療事故のリスクが高い外科医などを支援する、既存の「ピアサポートチーム」と連携。「ピアサポートチーム」に対して相談が入った場合であっても、必要があれば、こころのケアチームにつなぐ仕組みを整えた。

 職員から健康に関する相談を受け付けている「埼玉医科大学教職員・学生健康推進センター」でも、コロナに関連してメンタルケアが必要だと判断した職員は、チームに紹介する。

コロナ対応は多様な職種での総力戦

 アンケートから、改めてわかったこともある、と松岡講師は言う。

 「コロナ対応は多様な職種による総力戦。専用病棟の医師、看護師らが最前線ではあるものの、検査技師や栄養士、薬剤師なども専用病棟に出入りしますし、専用病棟から出てくるリスクの高い検体を扱う職種の人もストレスに曝露されています。発熱外来や救急センターで日常的にコロナ陽性疑いのある患者さんに接する職員も、その患者さんが陰性だとわかるまでは、陽性患者さんに接する時と同じ不安を抱えている。定期的に、全職種、全職員にスクリーニングする必要性を感じています」

 まだまだ先が見えないコロナ禍。病院は、医療職のメンタルヘルスケアにどう向き合えばいいのか。松尾教授は言う。

 「各施設で、今、職員が何にストレスを抱えているかを把握することが最初で、それが対策に関わってきます。感染の管理基盤が整っていなければ、まずそこに全力を挙げる。身近な人と不安などを話せない状況なら職員同士で話す場をつくることができるでしょう。心のサポートは的外れなことをすると逆にマイナスになります。見えにくい問題を正確に把握し、見逃さないために、現場の声を聞き、抽象化して、方向付けすることが良いのではないかと思います」

[用語メモ] 〈COVID─19職員メンタルヘルスこころのケアチーム〉
 2020年4月設立。医師4人、看護師1人、公認心理師1人、精神保健福祉士1人の計7人を中心メンバーに、病院職員のケアに当たっている。

記事に関する感想・コメントはこちらから

このフォームに入力するには、ブラウザーで JavaScript を有効にしてください。
名前
メニューを閉じる