九州医事新報社 - 地域医療・医療経営専門新聞社

県民の口の健康維持のために

県民の口の健康維持のために

琉球大学大学院医学研究科 顎顔面口腔機能再建学
中村 博幸 教授(なかむら・ひろゆき)

1994年福岡県立(現:公立大学法人)九州歯科大学歯学部卒業。
東京大学医科学研究所、英インペリアル・カレッジ・ロンドン・ケネディーリウマチ研究所、
金沢大学医薬保健研究域顎顔面口腔外科学分野准教授などを経て、2020年から現職。

 最近の日本の超高齢化に伴い歯科へのニーズは大きく変化しています。これまでの歯科に加えて、口の健康から全身健康に寄与する歯科医療、さらに医科と連携しながら急性期、回復期、維持期、在宅介護そして終末期医療をサポートする口腔機能管理、ひいては栄養・感染管理に関わる歯科医療が求められています。

 歯学部のない県では、医学部歯科口腔外科が唯一の歯科医療教育機関であり、時代のニーズの変化に対応できる医師、歯科医師を輩出することが大切です。琉球大学病院は、医師と歯科医師の両方を教育することから、医科歯科連携の推進において最適の場所であり、この利点を最大限に活用していきたいと思います。

 また、沖縄県の永久歯むし歯罹患(りかん)本数は全国最下位です。その背景には、個人・地域格差による歯科衛生管理の不足などが理由であるとされています。また、咬(か)む力や舌などの口の健康維持は、超高齢社会で満足な生活を過ごすためにも重要です。

 県民の生活向上のためには、口の健康を維持できる環境・仕組みを地域と一体となって推進しなければなりません。今後は、地域医療、行政との連携体制を構築し、対話からニーズを丁寧にもれなく抽出することで、琉球大学病院に求められている役割を懸命に果たしたいと考えています。

 私は、福岡県立九州歯科大学を卒業し、翌年、生まれ故郷の富山に近い金沢大学医学部歯科口腔外科学講座へ入局しました。臨床研修修了後は、金沢大学大学院へ入学し、卒業後は慶應義塾大学医学部病理学教室や、東京大学医科学研究所腫瘍細胞社会学、さらに米国や英国の大学といった、国内外の高名な教授のもとで研さんを積んできました。

 帰国後は、東京医科歯科大学の特任講師として独立して研究を遂行する一方で、留学生の英語での教育に従事。その後、国立長寿医療研究センター再生歯科医療研究部の副部長に着任し、歯髄再生医療に取り組みました。2013年に金沢大学歯科口腔外科に准教授として着任した後は、頭頸部がんの解析と新規治療法の検討、顎関節滑膜炎の発症機構、歯科と認知症の関連解析とこれまでの研究経験を踏まえながら、幅広い領域の研究課題に積極的に取り組み、2020年に琉球大学顎顔面口腔機能再建学の教授に着任しました。

 このように、一般的な歯科医師とは少し異なる国内外での医学・歯学研究を通して、多くの恩師から一貫して探求心の大切さを学ばせていただきました。好奇心・探求心は、あらゆる仕事のエンジンとなりますが、時にすべてを知ったと錯覚し傲慢(ごうまん)になりやすく、それは好奇心・探求心を失わせ成長も止めてしまうので常に自戒せよと言われてきました。

 大学医師としての重要な資質に、患者さんの言葉にならない多くの訴えを学問の言葉に翻訳し、実験や疫学研究を実施することで明確なエビデンスを示し、英文原著論文として表現するリサーチマインドがあります。研究を行うに当たっては、アイデア・構想、実験、結果解析・解釈、英文論文作成、投稿、査読者への返事など、学ぶべき数多くのステップがありますが、この一連の作業は臨床での論理的な思考に基づく診療行為を促すこととなり、優れた臨床家を育てる萌芽(ほうが)となります。

 大学医師には、常に質の高い臨床と研究を展開できることが求められており、教室員がサイエンティフィックに、そして人間的に向上し、幸福を追求できるよう、最大限の教育とサポートを提供することが大切です。

 教室員には高い志を抱いて、その高みに向かって精いっぱい努力し、切磋琢磨する中で得た発見が大勢の人々の苦痛や悲哀の解決につながることを示し、その目標に向かってまい進できるような教室の構築・運営を目指しています。

琉球大学大学院医学研究科 顎顔面口腔機能再建学
沖縄県中頭郡西原町上原207 ☎️098-895-3331(代表)
http://www.ryukyu-oms.jp/

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