九州医事新報社 - 地域医療・医療経営専門新聞社

生活の視点取り入れ 患者に関わり続ける

生活の視点取り入れ 患者に関わり続ける

公益財団法人慈愛会 いづろ今村病院
黒野 明日嗣 院長(くろの・あすつぐ)

1989年鹿児島大学医学部卒業。
鹿児島大学医学部第三内科、スウェーデン・ウプサラ大留学、
介護老人保健施設「愛と結の街」施設長などを経て、2018年から現職。

 公益財団法人慈愛会いづろ今村病院の黒野明日嗣院長は「時々入院、ほぼ在宅」を病院運営のモットーに掲げている。介護老人保健施設の施設長を15年間務めた経験を生かし、超高齢社会における地域医療と病院のあり方を模索している。

─病院の特徴は。

 糖尿病と炎症性腸疾患と血液疾患を得意とする全130床の病院です。急性期57床、地域包括ケア53床、緩和ケア20床を有し、高度急性期の治療を終えた患者さんが、慢性期医療へ移行するまでの間を担っています。

 理想は「時々入院、ほぼ在宅」。同じ法人の今村総合病院には、高度急性期・急性期の医療資源が集中しています。患者さんは、そこから当院を経て、自宅を含めた在宅に戻る流れです。法人内には介護老人保健施設があり、さらに訪問診療のクリニックも2カ所あるので、在宅時はそこでも支援していく─という流れをイメージしています。

 急性期医療が必要な状態にならないためには、早い段階で患者さんの変化に気付き、早めに入院してもらって治療を施し、短期で退院していただくのがベストです。患者さんは家で調子が悪いのを我慢して急変して運ばれるケースが多いので、ならば病院から定期的に診に行く仕組みがあればいい。在宅での生活の安全性を高め、急性期医療の必要性を抑えていく医学管理のチャレンジをしています。在宅療養支援病院の認定も取得し、現在は緩和ケアも行っています。

 ただ、施設間の連携には確固たる仕組みの構築が必要。最終的には当院を利用した患者さんの現状を、地域連携部で全て把握できる状態になるのが理想です。今どんな容体で、どの施設にいるのか、老健を経て在宅の先生に引き継がれたのか。最新の情報を共有できるシステムを確立してノウハウを整えられれば、それをオープンにして他の病院でも活用していただきたいと考えています。

─介護施設での経験はどう生きているのでしょうか。

 急性期医療に「生活の視点」をもっと取り入れる必要があると感じています。
 ナースコールを頻繁に押す認知症患者さんについて相談を受けた時には、ベッドの向きを変えることを提案しました。患者さんの部屋はベッドが壁側を向いていて、その壁にはカレンダーが貼ってあるだけ。患者さんの視界には、壁とカレンダーしかないのです。「人恋しい方だから、廊下を行き交う人が見えた方がいいかもしれない」。そんな介護の発想・ノウハウを、医療の現場にも落とし込んでいく必要があります。

 また、自宅復帰を希望する患者さんについて「この方は独居」と説明されたとき、私が最初に質問するのは「トイレに1人で行けるかどうか」です。独居なら排泄(はいせつ)の自立が必須であること、介助が必要な状態であれば、自宅以外を選ぶか、別の手を打つ必要があることなどを、認識しておくと、患者さんとのコミュニケーションも変わってくると思います。

─今後は。

 鹿児島大学の各関連医局との緊密な連携が必要であり、特に今後爆発的増加が予想される心不全に関しては、2020年から循環器内科医1人を派遣いただいています。最終的にはさらなる増員が必要になると想定していますが、現状で何ができるのか、今後、どのような体制で取り組んでいくのか、試行錯誤している段階です。

 また、「時々入院、ほぼ在宅」で過ごしていただく患者さんたちの看取(みと)りまでできる仕組みを構築したいと考えています。患者さんに関わり続け、希望に沿った生活、最期のために医療を提供していきたい。その実現には、地域の各組織・機関との連携が必要で、当院がそのハブとしての役割を果たしていきたいと願っています。

公益財団法人慈愛会 いづろ今村病院
鹿児島市堀江町17─1
☎099─226─2600(代表)
https://www.jiaikai.or.jp/idzuro-imamura/

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